アルコール中毒ROCK

酒と病気と音楽と人生を転がり倒す。

1.『15歳』あの時、ああすればもっと。

15歳の春、高校を退学になった。

 

 

中学のツレと呑めもしないバーボンを呑んで、酔っ払ったあげくに乗れもしないバイクに乗って事故り警察に捕まったのが運の尽きだった。

 

警察から高校に連絡が入り事は公に。

そして退学に。

 

しかし大した絶望感も無く、毎日夜な夜なあまり出来が良いとは言えない友達皆んなでバイクに乗って遊んだり、酒を呑んだり、当時流行っていたバンドブームに乗っかってライブしたり、彼女はいたし、それなりに楽しい退学生活を送っていた。

 

ただ、

無職だった。

 

 

 

「ねえ、金ちゃん働かないの?」

 

彼女の香織ちゃんが缶ビール片手に煙草を吹かしていた僕をいつに無く不安そうに問いかけてきた。

 

「あー、、そのうち、、」

 

僕は面倒くさくて言葉を濁し俯いた。

香織ちゃんも申し訳無さ気に俯いた。

 

 

正直あの時の僕は焦っていた。

香織ちゃんにこのままじゃフラれるんじゃないかという不安。夕方、目が覚めて寝ぼけ顔で頭ボサボサのまま煙草を買いに出かけると高校生になり制服姿で下校してくる昔の友人達に、

「よ!金田!」

と声を掛けられ自分が何やら無様な気がする。

自然と彼等を避けるようになった。

 

 

 

香織ちゃんも高校生だ。

 

夕方になると僕はジャージ姿で自転車を漕いで市内の香椎駅という駅へ向かう。

香織ちゃんが高校から電車で帰って来るのをお迎えする為に。

 

改札口の前にある花壇に座って煙草を吹かしながら売店の掛け時計を眺める。

 

今では腕時計は寝ている時も外すことはないが当時は腕時計なんかするのは絶対に嫌だった。何やら時間に縛られないとか、自由だ!とかよくわからない、くだらない理由だった気がする。

況してや携帯なんかどこかの大企業の社長ぐらいしか持ってない時代だった。

ポケベルすら持ってなかった。

いや、金が無くて持てなかった。

 

 

「金ちゃーん!」

 

改札口の向こうから手を振りながら走ってくる香織ちゃん。

煙草を花壇に捨てると僕も笑顔の香織ちゃんに向かって歩いて行く。

 

これが日課であり楽しみでもあった。

夕方からはお菓子や酒を買って香椎浜という海岸に行ったり、名島神社という神社内のベンチに座って今日あった出来事や将来結婚して子供ができたら名前は何にしようとか、色んな話しをしていた。

 

ピーチツリーフィズというジュースみたいなカクテルをよく呑んでいたのを思い出す。

 

 

 

当時、友人達と組んでいたバンドのベースをやってる奴の実家が古い元旅館で二階の一室にこれまた古いドラムセットとでっかいアンプが2台あり、そのベースの兄貴もバンドをやっていたらしく、その部屋をスタジオ代わりにしていたよう。

僕等がそれを受け継いだ。

 

僕以外、メンバーは皆んな現役高校生だったので学校が終わってからその旅館スタジオに集まり煙草を吸ったり皆んなの高校生活の話を聞いてから演奏練習に入る。

その頃、封を開けたばかりの煙草の1本目を逆にして、また箱にしまってその逆にしまった1本を最後に吸うと願いが叶う、人に煙草をあげると願い事が叶わなくなる、といった最近に言う都市伝説があった。

今、思うと単に人に煙草をやらない為の裏技かとひねくれた事を思ってみたりする。

とにかく香織ちゃんもその練習風景を笑顔で眺めていた。

平和だった。

 

 

メンバー内で喧嘩は無かったがベースが少しやっかいな奴で学校の同級生やメンバーの影口をよく叩いていた。

それを省けば仲良いバンドだった。

バイト名は、

シルフィード

意味は風の妖精らしいが今現在になって初めて調べたところ、

「風の精シルフの女性形」

となっていた。

命名はベースである。

 

 

あの頃、30年程前。

「KissXXXX」

という楠本まきさん作、少女漫画の金字塔?美少年美少女達がやたら登場するヴィジュアルバンド漫画が密かに流行っており僕等も香織ちゃんもそれなりに髪型や格好を真似たものだった。

僕等の演奏は聴けたものじゃなかったが。

 

僕はボーカルだった。

「ド」

が付くオンチでよく香織ちゃんと公園で歌の練習をしていた。

 

香織ちゃんは、まあ位置付けで僕等バンドのローディーとなった。

僕も含めてメンバーの面倒を彼女なりに世話していてメンバーからいつしか「ママさん」と呼ばれた。

バンドのポスターもメンバーの写真を集めて手作りしてくれてライブハウスや、その辺の電柱なんかにペタペタ貼っていた。

 

 

6月初旬。

初ライブ。

5グループくらいのバンドが集まり客数はよく覚えていないが四十畳程であろうか、満員だった。

ほとんどが僕のバンドのベースの友達がやっているバンドの客らしく僕等は当たり前だが無名だし僕等を観に来る客なんかいなかった。

 

高校に行ってない友人達はほとんどが暴走族になりバンドをしているのは中学のツレで僕だけだった。

退学になる前に高校で今のベースと友達になりバンドをするようになったわけだ。

ベースはまだ、その高校に通っていた。

 

 

 

 

僕等のバンドの番が回ってきた。

演奏が始まり僕は歌う。

客はシラっとしている。

 

初ライブは虚しく終わりトリの人気バンドの出番では大盛り上がりだった。

 

控え室で何気に落ち込んでいた僕等を香織ちゃんは一生懸命励ましてくれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「金ちゃん、、」

 

香椎浜の海岸で缶ビールを呑んでいると隣に座っていた香織ちゃんが震えるような声を出した。

ふと、香織ちゃんを見ると香織ちゃんの目に薄っすらと涙があった。

僕は驚いて、慌てて香織ちゃんの手を握った。

 

「香織ちゃん、ごめんね?どした?」

 

香織ちゃんは悲しそうに呟いた。

 

 

 

「金ちゃんは自由だね、」

 

 

その言葉に驚いてすぐ様返した。

 

「香織ちゃんも自由だよ!どした!?」

 

香織ちゃんは首を横に振りながら言った。

 

「学校、辞めたい、」

 

 

数秒、理解できなかったが悪い頭で何だか理解できた気がして叫んだ。

 

 

「ぼ、僕、働くよ!

   働いて一緒にバイク、、

   そう!バイク買おう!

   2人で旅に行こう!!

   だから泣かないで香織ちゃん!」.

 

 

 

 

 

 

 

香織ちゃんは涙を拭くと可愛い笑顔でうなづいた。

僕もうなづいた。

 

 

 

 

 

 

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もうすぐ15歳が終わる。