アルコール中毒ROCK

酒と病気と音楽と人生を転がり倒す。

2.『16歳』世間は甘くないなあ。

初夏。

震える手で客にお冷やを運ぶ。

こぼさないように。

 

 

リンガーハットなにわ店にて勤務中、バイト中。時給510円。働く事は尊い

その頃は今の電動鍋ではなく12人前ぐらいのでっかい中華鍋を振っていたのを思い出す。

 

 

何はともあれ6月、16歳になった僕は働きだした。

バイト代を貯めてバイクを買って香織ちゃんと旅に出るのが目的だった。

香織ちゃんの笑顔が見たい一心だった。

 

 

仕事は中学時代の親友、

あだ名を「ロト」というバス釣り友達がリンガーハットでバイトをしていてそいつの紹介で雇えてもらえた。

 

ロトも、

「お前がバンドしてるなら俺もする!」

と言い出し高校の仲間とやらと、

『ボバズ』

などといった名前のバンドを組んだ。

そのボバズのドラムをやっていたのが現在でも呑み仲間になる「タロちゃん」だった。

 

バイトでのメニュー「皿うどん」はすぐに作れるようになり今でもたまに当時を思い出しながら作ることがある。

ちなみにロトのバイトの時給は480円。

今はどうだか知らないが当時は高校生と僕とは違うらしかった。

それだけ社会に出て働くという事だったのだろう。

僕はその時は社会の重さを全く分かってなかった。

今もよく分かってないが。

 

 

はっきり言って仕事のつまらない事つまらない事。。

キツイし客は生意気だし足は痛いし。

 

とくに僕の中で仕事中やってはいけない行動ベスト上位に入る「作業中トイレ」に行きトイレの中で煙草を吸ってサボってばかりいた。

こんなロクでもないガキは社会から抹殺したくなる。が、

僕はトイレでサボっていた。

そんな適当な仕事をしながら夏は過ぎていった。

 

 

 

 

鈴が鳴る季節。

忍び寄るサンタ。

自宅の僕の部屋のガラス窓が鳴った。

 

「今日は誰だろう」

 

僕の自宅のボロアパートはバンド仲間の溜まり場になっており友達は深夜訪ねてくると玄関には向かわず、僕の部屋に隣接した隣のアパートの階段から僕の部屋の窓目がけて小石を投げ、それが遊びに来た合図だった。

 

窓を開けると小さな影が1つ。

 

「香織ちゃん!?」

 

香織ちゃんの家は門限に厳しくこんな夜更けに僕の家に来るわけがなかった。

慌てて隣のアパートに行くと香織ちゃんがアパートの下に座っていた。

 

「香織ちゃん!どうしたの!?

   お母さんは!??」

 

香織ちゃんの母親は「しつけ」に厳しく、対して父親はいつもは優しい方だが酒が入ると豹変し暴力を振るい、香織ちゃんもしばしば叩かれるという作り話のような家庭だった。

 

 

薄暗く香織ちゃんの表情はわからないし泣いてもいない。

ただ、俯いて小さな体がもっと小さく見えて胸が張り裂けそうな気持ちだった。

 

 

 

 

尾崎豊ではないが、100円で買えるココアを飲みながら香織ちゃんはしばらく僕の家においてとせがんだ。

 

僕の母親は夜9時には眠りにつく。

酒好きで毎日友達らしき人と電話をしながら潰れるまで酒を煽って寝ていた。

僕とも口は聞かず朝は早くからパートに行き、顔を合わせることはあまりない。

こんな時間に香織ちゃんと居られるのは嬉しいけれどやはりこのまま何日とはいかない。

 

「金ちゃん、困らせてごめん、」

 

困るより嬉しい方が先に立つがどうしたものか。

 

「学校辞めたいて言ったら出て行けって

   言われたの?」

 

ココアを飲みながら香織ちゃんはこくりとうなづいた。

香織ちゃんのお母さんは怖い。香織ちゃんを送り届けないと怒鳴られるどころの騒ぎじゃない。でも香織ちゃんといたい。

 

煙草に火を付け煙を人吐きすると僕は言った。

 

 

「とりあえずコンビニいこか!」

 

 

香織ちゃんの顔は満面の笑みにあふれた。

僕の顔も笑顔で満ちあふれた。

愚かな笑顔。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、、もう1週間ですね、そろそろ、」

 

母親が電話で誰かと話していた。

香織ちゃんの親だとすぐ気付いた。それはそうだろう。年頃の娘が家出して1週間待ってくれた僕と香織ちゃんの母親に感謝しなくては。学校も休ませてロクでもない彼氏だとつくづく思う。

僕の母親も駆け落ちしたクチだ。この1週間、ブツブツ言いながらも目をつむってくれていたんだ。

香織ちゃんもそろそろだとは思っていたようで散らかったビールの空き缶やお菓子のクズを片付けていた。

 

 

その夜、香織ちゃんのお母さんが香織ちゃんを迎えに来た。

僕達の母親はお互いに頭を下げていた。僕の母親は平謝りかと思いきやそんな感じでもなく「またおいでー」と気楽に香織ちゃんに言っていた。

僕がバツの悪そうな顔で頭を下げていると香織ちゃんのお母さんは、

 

「金ちゃん、また香織をよろしくね」

 

と意外な言葉にびっくりした。

香織ちゃんはずっと下を向いていた。

 

 

この1週間の間に香織ちゃんの両親は離婚が決まっていたらしい。

離婚が成立した年明けに、

香織ちゃんは高校を辞めた。

僕のせいだと思う。

何もかも。

 

 

 

 

 

 

 

1月下旬。雪もチラつくさ。

香織ちゃんは接客も上手だしバイトの先輩からも可愛いがられていた。

高校を辞めてすぐに僕と同じバイト先で働き出した。時給510円。ロトは490円にアップしていた。

テキパキと働きながら僕より後に入った香織ちゃんは僕に接客態度を正した。

 

「金ちゃん、

   お客さんに頭にくるのはわかるけど、

   いつか怒りを抑えるんじゃなく、

   流せるようになればいいね☆」

 

こんな少女がなんと素晴らしいことを言うかと今、思い出しながら改めて感心するものだ。

 

バイトの先輩達は僕のことを「かっちゃん」と呼ぶようになり香織ちゃんのことは、

「かっちゃんはにー」

と呼ぶようになった。

 

ほんとだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

辞めたはずの学校に行きたいと言い出したのは香織ちゃんだった。

 

「金ちゃんが免許取ってバイク買ったら

   2人乗りで定時制いこうよ!」

 

バイクの夢はまだ叶わなかったが僕と香織ちゃんは17歳になる年の春、

2人揃ってピカピカの高校1年生になった。

学費は月5千円程度でバイト代でまかなえた。

 

 

学年毎に2クラスあり僕達は同じクラスにはなれなかったけれど休み時間には毎回、香織ちゃんは僕のクラスに遊びに来た。

いつしか香織ちゃんは定時制全体の人気者になっていく。

 

 

 

僕は定時制で出来た男友達、

「福ちゃん」

の家に泊まるようになっていった。

福ちゃんは学校までモトクロスバイク

カワサキの「KDX」で通学していて始めの頃は僕や香織ちゃんをバイクの後ろに乗せて3人で遊んでいた。

しかし僕と香織ちゃんは西鉄電車で通学していて僕がいちいち電車で帰るのが面倒になり福ちゃんとバイクで福ちゃんの家に行くようになる。

 

定時制から家に帰るのは夜遅く10時過ぎ。

帰りの電車の中で独り、

香織ちゃんは何を思っていたのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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定時制高校入学して間も無く、

僕はバイトに行かなくなっていく。