アルコール中毒ROCK

酒と病気と音楽と人生を転がり倒す。

4.『18歳』父親と娘と鳶さん。

鳶、土工の会社に就職した7月31日。

うだる暑さは真夏の工事現場。

こんなにも暑いか。

こんなにも工事材料は重たいのか。

こんなにも働くとは大変だったか。

 

 

鳶職人とは建物を建てるにあたって建物、「躯体」に携わる職人さん達の作業足場を組立てたり解体する職人である。

鳶職人の種類には、

足場鳶

橋梁鳶

鉄骨鳶

ビケ足場(僕はビケを今でも鳶と思っていない)

などがあり用途は様々である。

僕の種類は本足場鳶に属した。

 

材料はとにかく豊富で1つの材料に2つ3つ名前があるもがあり名前を覚えるのにいやはや苦労したものだった。だいたい材料を持ってこいと言われ「何個ですか?」と聞くと「いっぱいだ!」などと抜かす猿共相手である。やってられない。

 

 

僕の会社は2次下請けだ。会社の寮を朝5時に元請けの会社の事務所に向けて10人乗りハイエース車に10人乗って出発する。社員の平均年齢は22歳くらいで各元請け専属班に分かれており皆んなとても真面目で仕事もできた。

しかし僕の会社の先輩達は元請け職人達にへつらう事無く堂々たるものだった。

元請けの職人は新人の僕のことは名前では呼んでくれず「オイ」「ガキ」などで、たまに

「そこの鳶みたいな格好してる奴!」

と馬鹿にされていた。

僕は正直、金さえ貰えればよかったので腹も立たないしなんともなかった。向上心なんか糞食らえだった。

 

元々会社は長崎にあったらしく理由は知らないが去年福岡に移転してきたらしく長崎で働いていた社員達も山本さんに着いてきて現在に至るらしい。

初任給は25万円で1年経てば無条件で30万円という18歳の所帯持ちには嬉しすぎる条件の会社であった。

27歳の「温水さん」という僕の班のリーダーは月50万円貰っていて、これも山本さんの経営の凄さから来ているんだろう、僕達を受け入れてくれた器から来ているんだろうと思っていた。

 

 

会社は福岡の城南町という所にある。

会社の寮の2階建ての2階の204号室が僕と瞳ちゃんの部屋だ。

6畳一間に18型のブラウン管テレビが1つあるだけで、布団はシングル布団にぎゅうぎゅうで瞳ちゃんと寝ていた。

 

ある日、元請けから寮に仕事を終えて帰ってくるとリーダーの温水さんから

「金ちゃん、ちょっといいかい!」

と呼ばれた。

寮の1階の駐車場広場の縁石に温水さんと2人で腰を下ろした。

僕は日頃の作業態度が悪いと叱られるのをびびっていると温水さんは笑顔で話を始めた。

 

「金ちゃんバンドやってたんだって?

   パンパンハウスってバンド知ってるかい?」

 

突然の質問に少しびっくりしたがパンパンハウスというバンドは長崎の人気バンドでインディーズからプロになった時期で僕は偶然にもパンパンハウスの「2人だけのDREAMS COME TRUE」という曲をカヴァーしたことがあった。

「ええ、知ってますけど、、」

答えた僕に温水さんは満面の笑みを浮かべて会話を続けた。

 

「パンパンハウスいいよな!でな、、!、」

 

退屈そうな僕を見てかは知らないが温水さんのはしゃいだ表情が少し真面目になりまた口を開いた。

 

「金ちゃん、うちの会社はね、

   夢を育てる会社なんだ。

   今、夢が無い人間ばかりだろ?

   山本さんと共に俺達は会社を日本一の大企業

   にして将来俺達は万人の上に立つ男に

   なるのさ!一緒に頑張らないか?」

 

僕は求めていた夢はこれだ!と胸が踊り熱くなった。

「是非、お願いします!万人!」

温水さんは「うんうん」と優しく頷きながら僕に諭した。

 

「道は長い。

   色々本を一緒に読みながら勉強していこう。

   今日は瞳ちゃんも待ってるだろうから、

   部屋に戻ってあげな、また明日な!」

 

そう言い残すと温水さんは去って行った。

僕は部屋に戻り瞳ちゃんに今日あった事を話した。

 

 

 

会社の寮では各部屋で班毎に「読者会」なるものが夕方から行われていた。

皆、

『思考は現実化する』

というナポレオン・ヒル著者の成功哲学書を読んでいた。

その異様な光景を疑いもせず、僕も読者会でナポレオン・ヒルを読み漁っていたのだった。

山本さんからの洗脳完了である。

 

 

 

 

 

 

 

2月。

僕と瞳ちゃんは瞳ちゃんの実家で暮らしていた。臨月だった。

毎日がご馳走でビールも飲み放題。

会社は特別に実家から元請け会社に直行直帰させてもらっていた。 

 

13日の夜、破水が始まり僕は仕事を休み瞳ちゃんは病院へ、僕は瞳ちゃんの実家に待機する事になった。

14日の昼下がり。

昼寝なんかしていると瞳ちゃんのお姉ちゃんから起こされた。

「金ちゃん!生まれたみたいよ!」

 

僕は慌ててお姉ちゃんの車に飛び乗り病院ヘと向かった。

分娩室に入ると瞳ちゃんが赤ちゃんにおっぱいをあげていてそれを真上からマジマジと目を開いて見つめた。

近くにいた看護婦さんが近寄ってきた。

 

「パパさん、頑張ってね!女の子よ!

   それより赤ちゃんどう?

   私、こんな真っ白な肌の赤ちゃん、

   初めて見たわ!」

 

娘は赤ちゃんにしては真っ白な肌らしい。

僕は不思議と感動が無く他人の出来事のようだった。

 

とにかく僕は家族を持った。

18歳にして1時の父となったのであった。

気は重くは無いが全く父親としての実感が無かった。

 

 

 

「金ちゃん、赤ちゃんできたら

   名前なんてする?」

 

「んー、

   麗華なんかどう?綺麗じゃない?」

 

「わかった!そうしようね!」

 

 

 

 

 

香織ちゃんとの15歳の時に話していた子供の名前を僕は娘に名付けた。

その事をここに書くまで誰にも言ったことがなかった。今が初めてのカミングアウトだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

娘の名前は

『麗華』

ただ、それでいいじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

麗華はすくすくと育っていった。

季節はまた春を迎えた。

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