アルコール中毒ROCK

酒と病気と音楽と人生を転がり倒す。

6.『20歳』鹿児島で生まれた女。

20歳、12月は上旬。

 

鹿児島出張所では初め孤独だった。

仲間も出来ず20歳の夏に原付免許を取っており鹿児島で原付バイクを買い仕事が終わると1人でバイクで定食屋に夕ご飯を食べに行ったり共同風呂が嫌で「たぬき湯」という銭湯に行っていた。

家族の元には毎週土曜日には帰っている。

それだけが心の支えになっていた。

 

 

鹿児島出張所ではやがて、

『宮崎』

という19歳のひょうきんな奴がとても人気者になっていて僕に「金さん金さん!」となついてきていた。

宮崎のおかげで僕は鹿児島出張所の皆んなに溶け込んでいけた。

 

20歳の時の鹿児島の12月は汗ばむほど暑く現場では滴り落ちる汗を拭いながら宮崎とペアで内部足場を組んでいた。図面を片手にくわえ煙草で頭を悩ませていると宮崎が僕の顔を覗きこんだ。

 

「金さん!缶コーヒーでも飲んで

   一服しましょうよ!

   いいアイデアが浮かぶかも!」

 

そう言うと宮崎は走って缶コーヒーを買いに行った。僕は焦っていた自分が恥ずかしくなり同時に宮崎の機転の良さに感心したものだった。

 

帰ってきた宮崎と足場に腰を下ろして缶コーヒーをいただいた。2人で煙草を吸いながら宮崎に図面の見方を教えた。宮崎はとても頭が良く飲み込みも早くてどんどん仕事を覚えた。

 

「よし、4時か。さっさと組んで帰ろうか」

 

僕が煙草消して宮崎に言うと宮崎の表情に気合が入りまた天井目掛けて内部足場を組みだした。

夕焼けが綺麗な鹿児島水族館の現場であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「宮崎!さっさと読書会開けよ!ノロマ!」

 

温水さんの怒号が鹿児島の寮に響いた。

鹿児島でも読書会はやっており現場から帰ってきたら宮崎が読書会をまとめる役だったが宮崎が新人の子とバーチャファイターというゲームに没頭していたところに温水さんのカミナリが落ちた。宮崎は慌てて読書会を開いた。

温水さんは鹿児島の所長になって人間が変わっていた。いつも威張り散らかして若い子達は温水さんのパシリとなっていた。

鹿児島出張所ができてからすぐに温水さんに付いた子達は温水さんに可愛がられていたが僕を含めて宮崎、それ以降の子達は温水さんに目の敵にされた。僕と宮崎以降の皆んなは温水さんより僕を慕うのが温水さんは気に入らなかったみたいだ。

 

温水さんと一緒に鹿児島出張所に転勤してきた温水さんの右腕、

『脇山』

はこれまたいけ好かない奴で仕事はできるが僕達一派の陰口を有る事無い事温水さんに告げ口をしてそれが温水さんから社長の山本さんの耳に入り僕らは会社の中で四面楚歌となっていく。

 

いつしか社内でこんな噂がたち始めた。

 

「金田組、独立」

 

僕にはそんな事一欠片も思った事は無いが噂は1人歩きしていった。

そんな中宮崎率いる10人の若手達が僕の部屋にやってきた。

 

「金さん、独立しましょう!

   俺ら金さんについていきますから!

   こんな会社辞めちまいましょうよ!」

 

さて困ったものだ。

僕は熱くなっている彼等をまずなだめて言い聞かせた。

 

「1年、よし、1年まて!

   独立するまで準備するから

   この1年皆んな腕を磨いておくんだ。

   それまで待てるか?」

 

宮崎達はコクリと頷き静かに解散した。

 

噂から始まったとは言え、乗りかかった船だ。

僕は気合いを入れた。

15歳の頃の僕ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

鹿児島出張所は相変わらず温水派と金田派でピリピリはしていたものの仕事は皆んなちゃんとこなしていた。

 

「たまにはカラオケでも行きましょうよ!」

 

宮崎が嬉しそうに僕に言った。

僕と宮崎とあと2名の4人で焼き鳥屋に行き仕事の話しなんかしてそのままカラオケへと出向いた。

4人で騒ぎながら歌っていると宮崎が僕の右腕を掴んだ。

 

「金さん!隣の部屋、女の子4人ですよ!

   ナンパ行きましょうよ!」

 

僕もノリノリで4人で隣の部屋に入っていった。

部屋には女の子4人がいて僕らの突然の訪問に驚く事もなく簡単に打ち解けて8人で盛り上がった。

それぞれカップルになり僕とカップルになった女性は僕の2個上の22歳、

 

『ヨウコ』さん

 

だった。

色黒でサーフィンやジェットスキーをやっているらしく髪は茶髪で肩ぐらいの長さ。とても綺麗で可愛い女性だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヨウコさんから寮の公衆電話によくかかってくるようになった。

ヨウコさんはdocomoの携帯P201を持っていて僕にはPHSがあったが電波が悪く寮に連絡がきていた。

ヨウコさんから呼び出しがあると僕は原付バイクで山の上にある寮から街まで下り待ち合わせ場所のTSUTAYAでいつもヨウコさんと会っていた。

TSUTAYAの駐車場に原付バイクを止めてヨウコさんのパジェロに乗り込みいつも2人で鹿児島の街を楽しんだ。

 

 

ヨウコさんと鹿児島の港に行くとそこで弾き語りをしている男性がいてヨウコさんが僕に、

 

「金くんもギター弾くんでしょ?

   1曲歌ってよ」

 

とまじまじと見つめらるながら言われた。

弾き語りの男性からアコギを借りて歌う

ことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

負けないように

枯れないように

笑って咲く

花になろう

ふと自分に

迷う時は

風を集めて

空に放つよ

 

 

 

 

 

 

 

 

上手い下手は別として弾き語りの男性とヨウコさんから拍手をいただき軽く頭がを下げるとそのまま僕は続けてセリフを言った。

 

 

 

 

Is she really going out with him? 

 

 

 

 

弾き語りの男性とヨウコさんはキョトンとした。

そのまま僕はギターをかき鳴らした。

 

 

 

 

 

 


I gotta new rose ,i got her good!

Guess I knew that I always would

I can’t stop,to mess around

I gotta brand new rose in town♪

 

ジャンッ!

 

 

 

 

 

演奏を終えた僕をポカンとしたままの2人がやっと口を開いた

 

「誰」

 

少し冷めた感じの質問に僕は答えた。

「ダムドってバンドです、すいませんでした」

また間があって小さな拍手の後にヨウコさんが言った。

 

「よくわからないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

年を越した1月。

相変わらずヨウコさんと2人でゲーセンに行ったりカラオケに行ったりして毎日を楽しんでいた。

仕事の方も順調で瞳ちゃんと麗華も元気に暮らしていた。

体調の方は福岡での大学病院から紹介状を鹿児島の病院に提出していたので薬の心配はなかった。

 

 

桜が散る頃瞳ちゃんのお腹に第二子が誕生した。

僕は次は男の子を!と言っていて瞳ちゃんはそんな僕を見て笑っていた。  

6月7日がやってきて僕は瞳ちゃんより一足早く21歳になった。麗華は2歳になっていた。

 

「瞳ちゃん、今年の11月に

   福岡に僕、戻るみたい。その時、

   広い家に引っ越そう!」

 

瞳ちゃんは笑顔で何回も頷いた。

 

「そうだね!2人目も生まれるし、

   金ちゃんも福岡帰ってくるし!」

 

独立の話しもした。瞳ちゃんは僕がやりたいなら、と賛成してくれた。

僕は鹿児島での生活のかたわら、福岡の建築会社を色々と調べていた。独立は福岡でするつもりで宮崎達もその時は福岡に来る予定になっていたのだった。

 

 

 

11月7日。

福岡に帰る日。

ヨウコさんに別れを告げた。

電話だったがヨウコさんは泣きながら

 

「いつかまた会えるよね」

 

と声を詰まらせていた。

僕の鹿児島での恋は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

福岡に帰り2LDKの新しい物件を探すと僕達家族は早々に引っ越し、その部屋のリビングの半分を事務所にした。独立への第一歩だ。

場所は南区の桧原町というところだった。

福岡での仕事をしながら僕は鳶の会社への営業を始めた。常用単価表を作成し営業先にばら撒く準備をした。

 

 

 

 

 

 

 

2月15日。

麗華と1日違いで2人目が生まれた。女の子だった。

『優里』

と命名。

香織ちゃんとまたまた決めてた子供の名前から取った名前だった。これもまたここに書くまで誰にも言ったことがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3月、

僕は会社を退職した。

独立への第一歩が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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