7.『21歳』始動。
新社会人も彩る春。
前もって営業をかけていた会社から次々と仕事が舞い込んだ。
宮崎率いる総勢5名は福岡に5人で2DKを借り装填していた。
「宮崎、来週から2班に分かれて行動するぞ」
僕のリビング、半事務所で宮崎と話し合った。
「わかりました!いざ!」
打ち合わせを終えて宮崎、他4人と僕の家で御飯を食べて来週に備えた。
金田組、始動である。
初日目は僕を入れて4人と宮崎班2人で元請け2会社に分かれた。僕の元請け会社は渡辺工業、宮崎は福本創建という所だった。
初日の仕事が終わり、皆んな金田組の事務所に帰ってきた。
宮崎は明日から1週間の仕事のスケジュールを僕に報告して、そのスケジュールを事務所の縦1メートル横2メートルのホワイトボードに書き込んだ。
仕事は他からも5社ほど要請があったが僕は敢えて5人で仕事を回そうと人は増やさなかった。
宮崎は「沢山、職人入れましょうよ!」と息んだがそれはしなかった。
月、25日。仕事が切れても日当を払うのは5人が精一杯だと知っていた。5人でもキツイから倒産する会社はザラだった。僕の会社は人夫出しではない。
僕を入れて6人で走り始めていた。
瞳ちゃんも従業員達に毎朝4時に起きて朝ご飯のおにぎりと玉子焼きを作り、食べさせて昼間に飲む麦茶を持たせた。
瞳ちゃんは夕ご飯もロクな物を食べてないんじゃないかと5人に腕を振るって食べさせた。
5人は皆んなバイクで通勤しておりガソリン代も組持ち、作業に必要な革手や道具も、ご飯ももちろん組持ちであった。
しかし、それは瞳ちゃんの願いであって「遠くから来たあの子達に辛い思いをさせないであげて」ということだった。
蝉時雨、夕方。
宮崎は出された缶ビールでも片手に図面とにらめっこしながら呻いていた。
「鉄筋足場は柱かわせば
図面要らずに大体組めるのか。。」
宮崎の目の前で缶ビールを呑んでいた僕は宮崎に問いかけた。
「宮崎、請け仕事してみるか?」
宮崎の表情はぱあっと明るくなった。
「やりましょう!今の俺らならいけますよ!」
僕は瞳ちゃんの方に目をやった。
瞳ちゃんは笑顔で静かに口を開いた。
「小さな仕事から請けてみたらどう?」
僕と宮崎は操られるようにうなづいた。
「22歳と20歳だぞ!?」
「部長!そんなこと言ってる場合じゃありませんよ!」
スーツ姿の僕と宮崎の前で倒産寸前であろう地場の建築会社の部長と補佐らしき2人がもめていた。
この地場業社を紹介してくれたのは金田組のお得意さんで、僕と宮崎はこの会社が請けて欲しいと言う工事の見積もり書を持ち来所したのだった。
「仮囲、
ステージ二機、
台風養生でしめて50万ですか。。」
渋った部長と補佐を目の前に僕は眉間にシワを寄せていると宮崎が2人に切り込んだ。
「私達は金額では無く実績のある工事の為に
来所したのでして話しが合わないのであれば
私達は失礼しますが」
補佐は慌てて宮崎を宥めて言った。
「40万、40万でどうでしょう!?か!」
僕が「そうしましょう」と言おうとした時、宮崎が僕に口を叩いた。
「月末に20、よく月末に25の
45万振込約束でどうですか、社長」
部長と補佐は宮崎を見ながら首を縦にぶんぶんと降った。
僕もゆっくりと微笑んだ。
初めての請け負い交渉は終わった。
帰りのタクシーの中で宮崎がはしゃぎながら、
「この仕事2日で終わりますよ!
1日20万程の儲けですよ!」
と張り切った。
確かに材料費込みの金額なので額は少ないが初めてにしては美味しい仕事だった。それにこんな若い僕達にそんな大金をと思うとあの会社はよほど切羽詰まっているのかと今回の交渉に疑問もあった。
夕方、ネクタイを緩めながら瞳ちゃんに初請け仕事の話しをした。瞳ちゃんは笑顔で、
「おめでとう☆
今日は久しぶりに4人で夕食にしましょうね」
と、微笑んでくれた。
夕飯ができるまで子供達とじゃれることにした。
胸にひっかかる僕のこの感触はきっと宮崎が初仕事を僕よりも上手くこなしたからだと思うことにした。