アルコール中毒ROCK

酒と病気と音楽と人生を転がり倒す。

8.『22歳』シンナー中毒。

鹿児島5人組は宮崎20歳の他に宮崎と同じ歳の

『タカヒサ』

というのがおり、あとの3人は皆んな19歳であった。

仕事の能力は宮崎に引けを劣らず僕が現場を抜ける時は宮崎班とタカヒサ班に分かれていた。

 

ある日、僕が営業で現場を離れていると宮崎から携帯に電話がかかってきた。

「タカヒサが珍しく現場休みました。

   金さん、時間がある時に

   部屋を見に行ってもらえませんか」

僕は宮崎の家に向かうことにした。

 

部屋はシンナーの臭いでこもっておりまさかと思うと予感は的中した。

部屋の布団の上で缶に入っていると思われるシンナーをタカヒサは吸っていた。

 

「タカヒサ!お前何やってる!」

 

タカヒサから缶を取り上げるとタカヒサは力無く倒れた。

僕は慌てて救急車を呼んだ。

 

 

 

 

 

タカヒサは昏睡状態だった。

宮崎達が夕方、病院にかけつけてきた。

 

「タカヒサは日頃からシンナー吸っていたのか?」

 

宮崎は首を横に振った。

 

「5人で住んでいるからシンナーやってたら

   気づきますよ。何でタカヒサは。。」

 

宮崎達も困惑した表情でICUの前の長椅子でうな垂れた。

 

 

この夜

タカヒサは息を引き取った。

何故、シンナーをしたかは未だに謎のままである。

 

 

 

 

 

 

 

 

正月。

僕の家に宮崎達4人と38歳のおじさんがいた。

タカヒサのあなを埋める為に鳶歴10年の職人を入社させたのだった。

名前を『吉』といった。

 

瞳ちゃんが作ったおせち料理を前に5人はよだれを垂らした。

 

「あけましておめでとう。さあ、食べようか!」

 

挨拶もそこそこに5人は料理にがっついた。

 

僕は箸を置いて宮崎と吉さんに話しかけた。

 

「宮崎、吉さん、会社も軌道に乗ってきたし

   職人を少し増やして3班体制にしたいけど

   どう思う?」

 

宮崎はノリノリだった。

吉さんは箸を止めた。

 

「社長、増やすなら常用鳶じゃなく請けで

   行った方がいいんではないでしょうか。

   マンション3棟請け負うくらいないと」

 

僕は深く考えてまた2人に問いかけた。

 

「社員を増やすではなくて下請けを使おうか。

   それなら今の体制でまあまあの仕事を

   請けられると思う」

 

宮崎は「そうしましょう!」と言うとまた箸を動かし始めた。吉さんは深くうなづき僕に口を開いた。

 

「それが最善ですね。

    人を増やすより下請けに頑張ってもらいましょう」

 

話が決まると僕は正月明け、下請け業社を探す一方で新たな請け仕事を数本貰ってきた。

僕は打ち合わせや営業、日鳶連に顔を出したり元請けとの接待でほとんど現場には出なくなった。会社の職長は宮崎と吉さんだけでもう2人職長クラスが欲しく求人募集をかけたがそれに当たる職人は来なかった。

 

僕は前にいた会社にヘッドハンティングをかけた。『田渕』と『福ちゃん』である。

福ちゃんはなんと二つ返事でOKしてくれた。職長になれる実力がありながらくすぶっていたのだ。喜んで僕の会社に入ってくれた。

ただ、田渕さんは僕の誘いに頭を悩ませていた。「会社への恩義があるからなあ」とのことだった。僕は返事はすぐじゃなくていいよと言うと田渕さんは「もう少し待ってくれ」とだけ言葉を残してヘッドハンティングは終わった。

 

 

新生金田組は、

宮崎、吉さん、福ちゃん3人の職長、僕を入れて合計8人で動き出した。

 

14階建のアムール吉塚マンションと

12階建の西新パークホームマンションに宮崎。

 

生松台ゴミ処理場外部内部足場組立に吉さん。

 

高木工務店専属分譲マンション2棟に福ちゃん。

下請けは西海工業という大手人夫出しをフルに起動させた。西海工業には鳶職人も大勢いて宮崎達を助けた。

 

この頃は会社で10人乗りのハイエース車を買いそれに吉さんが運転して現場に行っていた。

宮崎は原付き。

福ちゃんは自家用車のサーフを出してくれていた。

西海工業の職人達は自分の会社の車で金田組に朝、6時40分に来て事務所のホワイトボードを見て、各現場へと向かうのが朝の決まりであった。

 

 

 

 

 

 

「瞳ちゃん、そろそろちゃんとした事務所が

   欲しいかな」

 

2DKのリビングの半分を事務所にしていた僕は瞳ちゃんに新しい事務所が欲しいと願い出た。

瞳ちゃんは少し考えて優しく微笑みながら僕に言った。

 

「安いテナントを今度の休みに

   見にいきましょう☆」

 

僕は胸が踊った。

風は追い風、面舵切らず。

モトリークルーの「キックスタートマイハート」が頭の中にガンガン流れた。

 

瞳ちゃんと酒を呑み交わしその晩は燃えに燃えた。

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また、春を迎えようとしていた。