10.『24歳』終焉と裏切り。
金田組は給料日である。
給料は手渡しで給料袋を配るのは瞳ちゃんの仕事だった。
皆んなが給料を貰い終わると給料日恒例の寿司パーティーが始まる。
酒を呑み交わし日頃の仕事の反省をしつつもお互い褒め称え合い、騒いだ。
20歳になった若手3人は花札を始め、宮崎と吉さんと福ちゃん達はお互いの仕事の腕を語り合っていた。
「吉さん!鳶が土工事なんかやってられませんよ!
鳶は現場の花形じゃないですか!」
絡んでくる宮崎に吉さんは、
「まだまだやのう」
と、大人な対応。
宮崎が「キィッ!」と食ってかかると福ちゃんが、
「吉ちゃん!宮ちゃんもそのうちわかるように
なるよ!相手にしないしない!」
とこれまた宮崎を小馬鹿にする。宮崎は悔しくて2人にまた食ってかかる。
瞳ちゃんは5歳になる麗華と2歳になる優里をあやしながら笑顔でその光景を眺めていた。
僕は若手3人の花札に横から口を出して、
「金さんウザいっすよー!」
と笑われていた。
給料日は毎日こんな感じだった。
この頃、
瞳ちゃんの父親の舗装会社が人手が足りず僕に手伝うように毎日のように電話がかかってきていた。畑違いでもあるし断っていたが僕の不眠症の病気も深刻でしばらく金田組を離れようか考えていた時期でもあった。
そんな中、僕は車の運転で事故を起こす。
不眠不休とどこからか聞こえてくる幻聴。
心身共にまいっていた。
僕は当時、心にあるものを抱いて吉さんに相談する。
毎日本当に耳鳴りがして体調も悪く身体がだらしい日々が続いていた。よく寝込むようになり会社の方は吉さんに任せて僕は休養を取らせてもらっていた。
たまに会社には出向いていたがきちんとさんに任せた事だしいらぬ口出しはしないことにしていた。
吉さんは中年女性の事務員を雇いその女性が瞳ちゃんの代わりをしていたのだった。
病院を再度受診すると主治医から、
「金田さんは分裂病の進行が重すぎます。
しばらく休養した方がよいですよ」
幻聴も聞こえる毎日が続いた。
僕は疲れていた。
幻覚を見るようにもなっていた。
ある日、吉さんを自宅に呼び、
とある相談を持ちかけた。
「社長、それ本気ですか?
俺らは社長に着いてきたんですよ?」
僕は社長を辞めると話した。吉さんが驚くのも無理はない。2人の話し合いは続いた。
「宮ちゃんが黙ってませんよ?
今でも手に負えないのに。。」
確かにその通りだが僕は吉さんに病気の話もちゃんとして何とか理解してもらった。
「本当に俺に会社を丸投げするんですね」
僕は重くうなづいた。
吉さんは僕を見つめてこれまた深くうなずいて口を開いた。
「わかりました。引き受けました。
俺が宮ちゃんに対しての行動にも
口は出さないんですね?」
僕はゆっくりとうなづいた。
吉さんも冷静にうなづいた。
「今までありがとう。
組を頼む、吉さん」
そう言うと僕の目から大粒の涙が溢れ出した。
金田組は吉さんに引き渡した。
僕は長い眠りについた。
自ら起こした呪縛からとき離れた感じだった。
思えば山本さんの会社での「金田独立騒動」.から始まったこの会社であり25歳になる僕は既に6年間金田組として走り抜けてきていた。
「 Hello, hello, hello, how low」
そんな気分だった。
ある日、夕暮れ時。
瞳ちゃんの携帯が鳴った。
瞳ちゃんは夕食の用意をしており子供達と遊んでいた僕は瞳ちゃんの携帯を何気に見るとディスプレイに
「サトル」
と名前が表示されていた。
「瞳ちゃん、サトルって人から電話だよ」
そう瞳ちゃんに問いかけると瞳ちゃんは慌てて僕のもとへと走ってきて、かかってきていた携帯を切った。
僕は迅座に悟った。
「瞳ちゃん、別れようか。
子供達は僕が面倒みるから」
瞳ちゃんは大粒の涙を流しながら僕に詫びた。
「ヤ、ヤクルトの人です。。
出来心でした。。
許して下さい!」
「サトル」の住所を瞳ちゃんから聞くと僕は子供達を連れて家を出た。
瞳ちゃんは泣きながら後を追ってきたが振り払った。
そのまま「サトル」の家へと車を走らせた。
子供達は「ぱぱ、まま泣いてたよ!」と言うばかり。
大野町というところに「サトル」の家はあった。子供達を連れて「サトル」の自宅のチャイムを鳴らした。中年の女性がで出てきた。きっとサトルな母親であろう。
「どちら様?、、」
不思議そうに言うサトルの母親の後ろに若い男性が顔を出した。
子供達が声をあげた。
「あー!たいたにっくのおにぃちゃんだー!」
僕が子供達に振り返ると子供達が僕に、
「このおにぃちゃんとままと
れいかとゆうりでたいたにっくみにいったー!」
と。
タイタニックは当時流行っていた映画だと気づいた。しかしそんなことはどうでもよかった。
「キミがサトルくんですね。
うちの嫁と一緒になるつもりで
関係持ったんですよね」
僕は自分で何がしたいかよくわからなかった。
ただ嫁を寝取られた怒りと子供達までがこの「サトル」をおにぃちゃん呼ばわりすることでハラワタが煮えくり返っていた。
「一緒になるつもりなら子供達も
面倒みて下さい。覚悟があるんでしょ?」
そう言うとサトルが半笑いで僕達に言った。
「ゴム付けてたから、
ゴム付けてたから大丈夫っしょ!」
子供達の前で僕は手錠をかけられていた。
僕が警察に連行される時、瞳ちゃんが駆けつけていて「金ちゃん!ごめんね!ごめんね!」と泣いていた。
サトルは全治2ヶ月の重症だったが大手会社ヤクルトでの不倫事情でもあり僕は書類送検で事なきを得た。
瞳ちゃんと瞳ちゃんの母親は僕に頭を下げ、家庭の方も何となく元どおりと言うか僕が何も言わずに時間は過ぎていった。
女とはわからないものであるとつくづく実感した。
毎日散歩や音楽を聴いて過ごしていた僕に瞳ちゃんのお兄ちゃんが
「うちの舗装屋に入れ」
と言ってきた。瞳ちゃんのお兄ちゃんは会社の跡取りであった。
体が鈍っていたこともあるが瞳ちゃんのお兄ちゃん
「ユウイチロウ」兄ちゃん
と僕は仲が良く僕は瞳ちゃんの会社に入社することを決めた。
まだ肌寒い3月の頃だった。
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