22.『26歳』えみちゃん奪還-中編-
図書室の端っこのテーブルの上で閉鎖病棟の見取り図を柳川さんは開いた。
「俺も昔閉鎖病棟A-3病棟に
入院したことがあるが念には念を入れて、
ここからA-3病棟まで行く地図を頭に叩き込むぞ」
皆んなで閉鎖病棟の見取り図を食い入るように見た。柳川さんは作戦を立てた。
「A-3病棟は俺らがいる病棟の真横に隣接している。
行き方はこの前の天体観測の時と同様、
非常口から侵入する。
3階まで上がるとA-3病棟の
非常口と繋がっている。
ここからA-3病棟の非常口の扉を開き中に入る。
非常口扉からA-3病棟の
えみちゃんとの待ち合わせ場所の中庭まで、
ナースステーションの前を通らなければならない。
ここが1番の難関場所だ。
ナースステーションの窓に姿が映らないように、
かがんでナースステーションの前を横切る。
後は渡り廊下を渡り中庭へと到着だ。
所要時間は30分てところだ。何か質問はあるかい?」
僕達は作戦を頭に入れた。
キタロウくんが張り切って言う。
「何時にどこで集まり作戦実行ですか??」
柳川さんは少し考えた。
「そうだな金ちゃん、何時がいいかい?」
僕はキタロウくんを見た。
「2時半にしよう。無駄に中庭で時間を潰すのは
危険だからね」
キタロウくんと柳川さんは深くうなずいた。
大ちゃんとゴマちゃんも「うんうん!」とうなずいた。
柳川さんはすっと立ち上がると、
「これ以上図書室にいるのは怪しまれる。
1度喫煙所に戻ろう」
僕達は喫煙所に戻った。皆んな煙草に火をつけるとため息混じりに煙をはいた。大した会話もなく就寝時間になり病棟の照明が白色から暗いオレンジ色に変わった。
僕は皆んなに内緒でギターのキーホルダーを百均で6つ買い込んでいた。
看護師に見つからないように、
柳川さん
大ちゃん
キタロウくん
ゴマちゃんに渡した。
皆んなは大喜びで自分の自宅の鍵に付けたりズボンのポッケにぶら下げたりした。
柳川さんが笑いながら、
「金ちゃん、6人おそろいのキーホルダーなんて
イキなことするねー!」
と喜んでくれた。
あとの2つは僕とえみちゃんのキーホルダーだ。
ゴマちゃんが大きなアクビをした。
柳川さんがゴマちゃんに諭した。
「ゴマちゃん、
起こしてやるから2時まで寝てきな」
ゴマちゃんはむにゃむにゃ言いながら病室に帰って行った。
皆んな不眠症でゴマちゃん以外は皆んな目が冴えていた。
それぞれ自由行動にはいった。
柳川さんは病室で本を読みゴマちゃんはイビキをかいて寝ていた。大ちゃんは喫煙所で広辞苑を1人でぶつぶつ言いながら読んでいた。
Gショックがピーッと鳴った。午前1時になっていた。
僕は腹ごしらえをしようとカップ麺にお湯を注いでデイルームの端に座った。遅れてキタロウくんがやはりカップ麺を持ってやってきた。
2人で麺をすする。ズルズルーっと音がする。
「キタロウくん、もし看護師に見つかったら
退院伸びるのは本当にいいの?」
キタロウくんは箸を休めた。
「はい、皆んな揃えるのはどっちにしろ、
今日しかないから後悔はありません。。」
そっかそっかと微笑むとキタロウくんはいつも背負っている小さなリュックを僕に見せた。
リュックのポケットのジッパーには僕があげたギターのキーホルダーが光っていた。
僕も自宅の鍵に付けたおそろいのキーホルダーをキタロウくんに見せた。
僕とキタロウくんはくすくすと笑ってカップ麺を食べた。
Gショックがピーッと鳴る。
2時だ。
「キタロウくん、
非常口に行くのは初めてだろうけどこれるかい?」
キタロウくんはリュックを背負ると立ち上がって元気に答えた。
「わかります?
じゃあ2時半に!」
そう言うとキタロウくんは去って行った。
煙草を一服してトイレを済ませるて病室に着替えに戻るとすでに柳川さんとゴマちゃんの姿は無かった。僕はえみちゃんに渡すギターのキーホルダーをズボンのポケットに突っ込んで急いで着替えて非常口へと急いだ。
看護師の目を盗み非常口の扉を開いた。
非常階段の踊り場には柳川さんとゴマちゃん、大ちゃんが既に待っていた。
2時半になったと同時にキタロウくんがやってきた。大袈裟な荷物を背負ってきた。
柳川さんがキタロウくんに聞いた。
「その荷物には何が入ってるんだい?」
キタロウくんは
「中庭に着いてのお楽しみです」
と笑った。
「よっしゃ、
俺たちのお姫様を奪いに行くぞ!」
そう言うと柳川さんは非常階段を駆け上がった。僕達も後に続いた。
空には北斗七星が輝いていた。
えみちゃんも夜空を見上げているだろう。
腰にぶら下げたギターのキーホルダーが元気よくゆれた。