アルコール中毒ROCK

酒と病気と音楽と人生を転がり倒す。

25.『26歳』最後の冒険-中編-

太宰府公園』に行く途中で近くのコンビニで缶ビールとお菓子を調達した。

それからまた自転車を漕いでやがて太宰府公園に到着した。

 

僕達は公園の見晴らしがいい高台に腰を下ろして缶ビールとお菓子を地面に並べた。

 

「太陽が気持ちいいね!」

えみちゃんが青空を見上げ言った。

 

「今まで夜空ばかりだったから、

   たまには昼間もいいだろ」

柳川さんがそう言うと缶ビールをプシュッと開けてぐいっと呑んだ。

 

「あー!乾杯してないのにー!

   金ちゃん最後だよ!?柳川っち!」

えみちゃんがぶーぶー言った。

 

柳川さんが首をふった。

「俺たちは最後じゃない。

   また会う日までだ。

   さよならの乾杯は酒が不味くなるだろ?」

 

無口なゴマちゃんがボソリと言った。

「そうだよ、よ。

   ぼくたちは1つだよ!」

 

大ちゃんが叫んだ。

「は!はなればなれになろーともー!」

 

「だからそれはいいって!!」

柳川さんが間髪入れずにつっこんだ。

 

僕達は爆笑した。

 

僕は寂しくなったが涙をグッとこらえた。

そうなんだ。遠く離れたキタロウくんも僕達もいつまでも1つなんだ。

ギターのキーホルダーを握りしめた。

 

「あそこに見える展望台に行ってみようぜ!」

柳川さんは僕達がいるもっと高台の木でできている展望台を指差した。

 

僕達は息勇んで立ち上がった。

 

そうだ。

いつだって柳川さんが皆んなを引っ張ってきたんだ。

『ハカセ』の天体観測。

えみちゃん奪還計画。

キタロウくんとえみちゃんの熱い口づけ。

そして今日の最後の冒険もみんな柳川さんが皆んなを引っ張ってくれたからこそ実行できたことだ。

 

「柳川さん!

   ありがとうございます!」

僕は感極まってお礼を言った。

 

「いいぜ!

   気にすんな!行こう!」

柳川さんはクールに言い放った。

 

 

木造の展望台から見渡す太宰府公園と夏の青空は絶景だった。

たまに吹く風が心地よい。

 

展望台の床には円形の模様があり、よく見るとコンパスになっていた。

 

コンパスには十字が印されており矢印マークには東の方向に『東京』と刻んであった。

 

えみちゃんがえみちゃんらしいことを言った。

「ねえねえ!

   キタロウちゃん東京でしょ!

   その方向にキーホルダーかかげて乾杯しようよ!」

 

柳川さんが赤面した。

「嫌だよ!恥ずかしい!

   俺はそういうガラじゃないんだよ!」

 

「柳川っちだってクサイこと言うくせに!」

えみちゃんはそういうとギターのキーホルダーを握りしめた手を東京の方角にかかげて叫んだ。

 

「キタロウちゃーん!

   愛してるよー!!」

 

大ちゃんとゴマちゃんが後に続いた。

 

「きー!きたろうちゃーん!あいにいくよーう!」

 

僕は笑って握りしめたギターのキーホルダーを東の空に高く上げた。

「ギターしょーねーーん!!」

 

周りの人達がクスクス笑っていた。

 

柳川さんはヤケクソに叫んだ。

 

「HIDEーーーーッ!!!」

 

 

えみちゃんが缶ビールを青空に向かって振り上げた。

「かんぱーーい!」

 

「かんぱーーーいっ!!」

 

もう周りなんかおかまいなしだった。

柳川さんは酔ったのか恥ずかしいのか頰が赤くなっていた。

 

 

 

えみちゃんと大ちゃん、ゴマちゃんははしゃぎながら缶ビールを呑んでいた。

柳川さんは僕の今後の話しをした。

 

「退院してもし何かに行き詰ったら、

  メールでも電話でもいいから連絡してきな。

  俺でよかったらなんでも話しを聞くからさ」

 

「心強いです。

   ありがとうございます!」

僕はお礼を言った。

 

柳川さんは話しを続けた。

「これは大ちゃんとゴマちゃんには言ってないが

   俺もえみちゃんも

   8月いっぱいで退院するんだよ。」

 

僕はびっくりしたが柳川さんの話しに耳をかたむけた。

 

  「大ちゃんとゴマちゃんをおいて退院するのは

   しのびないんだけど俺も金ちゃんを見ていて

   自立しようと今日決めたんだ。

   えみちゃんも小さな子供がいるから、

   いつまでも旦那に迷惑かけられないってさ。

   金ちゃんどう思う?」

 

僕は笑顔で答えた。

「はなれていても僕達は、」

 

柳川さんも笑顔で言った。

 

「1つ!」

 

僕と柳川さんはコツンと缶ビールを打つけた。

 

「あとゴマちゃんはまだ17歳だろ?近々

   高校に向けて勉強させるために両親が、

   迎えにくるらしいさ。

   大ちゃんも来年太宰府病院から他の病院に

   移転するって看護師の噂だし、

   皆んな1つとは言え本当にバラバラになるなー」

 

柳川さんが少し寂しそうな横顔をみせた。

 

僕はギターのキーホルダーを柳川さんの顔の前にぶら下げて笑ってみせた。

 

柳川さんは「フッ」と笑顔になりいつものクールな表情に戻った。

 

 

辺りはすっかり夕暮れになっていた。

いつのまにか寝てしまっていたえみちゃんと大ちゃんとゴマちゃんを起こした。

 

「さあ!

   帰ろうか!

   俺たちの場所へ!!」

 

いつもの柳川さんの号令に僕らは元気よく返事をした。

「了解!リーダー!!」

 

 

夏の夕暮れの空。

自転車で風を受けながら

僕達は「僕達の場所」へと帰っていった。

皆んなとの最後に見た夕焼け空だった。

 

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