アルコール中毒ROCK

酒と病気と音楽と人生を転がり倒す。

26.『26歳』最後の冒険-後編-

仲間達との最後の夜が来た。

皆んなといつものように喫煙所で煙草を吸う。

 

他愛もない話しをしているとたまに煙草を吸いにやってくる『サカイ』という新人看護師が現れた。

 

「よう、仲良くやってるかい?オレも混ぜてくれ」

 

そう言うとサカイ看護師は内ポケットから煙草を取り出して火をつけた。

 

「えみちゃん、このサカイには気をつけろよ。

   ドスケベだからな!」

笑いながら柳川さんが言った。

 

「酒の匂いをさせながら何を言うんだい柳川くん!」

サカイ看護師はヘラヘラ笑った。

 

僕達は息を止めた。

 

サカイ看護師は煙をはきながら悪そうな笑みを浮かべて言った。

「で?今日は何をやらかすんだい?柳川くん」

 

柳川さんは不敵な笑みをした。

「何をしでかしてほしいかい?

   サカイ看護師さんよう」

 

「やめなよ柳川っち。。」

えみちゃんが怖がっていた。

 

柳川さんの顔色が変わった。

「おいおい、クソ野郎、

   俺たちの姫を泣かしたらただじゃすまねえぜ」

 

僕達はサカイ看護師をにらみつけた。

 

「おー怖い!これだから精神病者はいけすかないな、

   金田くんだったね。明日退院するんだって?

   せいぜい最後の晩餐を楽しむんだねー

   オレは今日宿直だから何かあったら許さないよ、

   じゃあねー!」

 

僕は柳川さんに言った。

「あんな奴の挑発に乗ったらダメですよ柳川さん。

  今日は最後の夜。大人しくしてましょう、

 

 

 

 

 

 

 

 

   と、僕が言うと思いますか!柳川さん!」

 

柳川さんがニヤリと悪い顔で微笑んた。

 

皆んなドッと笑った。

 

えみちゃんが言った。

「でも柳川っち、

   あきらかに挑発だよ?

   皆んなの最後の夜を台無しにしたくないなあ」

 

柳川さんはフンッと鼻を鳴らした。

「最後の夜だからこそ

   でっかい花火を打ち上げるんだよ」

 

そう言うと柳川さんは持っていたバックを取り出した。

皆んなでバックの中を覗き込んだ。

 

なんと打ち上げ花火が大量に入っている。

 

 

「決行は非常階段に前と同じ午前2時だ。

   病院の近くの公園でっかい花火打ち上げようぜ!」

 

僕達は大きくうなづいた。

 

 

 

お薬の時間になり僕達はお薬を飲みに行った。えみちゃんは眠剤を1度服薬して口内チェックが終わるとそのまま眠剤をトイレにもどしに行った。

 

 

 

喫煙所で僕らはえみちゃんの帰りを待っているとえみちゃんがポロポロ涙を流しながら帰ってきた。

 

「どうしたの!?吐くの痛かった??」

僕があわてて問いただすとえみちゃんが泣きながら答えた。

 

「と、トイレから出てきたら、

   さ、サカイが待ち伏せしてて、、

   薬吐いたろって言って胸とお尻、

   触られた、、」

 

僕はあまりの怒りに立ち上がった。

すぐに柳川さんが僕を取り押さえてゆっくりと話した。

 

 

「作戦変更だ。

   花火は公園じゃなく

   病院の立体駐車場で決行する。

   皆んな俺を信じろ。

   えみちゃんの仇とるぞ」

 

僕は唇を噛んでうなづいた。

 

 

 

僕はデイルームでカップ麺を1人で食べていた。色んな思いが脳裏を駆け巡った。最後に頭にくることがあり思い出したらムカムカしてきたが柳川さんの「えみちゃんの仇とる」と言った言葉を信じることにした。柳川さんはいつだって僕達を引っ張ってくれたんだからきっとやってくれるはずだ。

 

カツッカツッと人が歩いてくる音が聞こえた。

サカイ看護師だった。

 

「まだ大人しくしているようだねー金田くん。

   せいぜい最後のカップ麺を寂しく1人で食べなさい」

 

僕は黙ってあっかんべをした

 

「はっ!これだから精神病者は!

   いやだいやだ」

サカイ看護師はヘラヘラ笑いながら去っていった。ぶっ飛ばしたくてたまらなかったがまた唇を噛んで我慢した。

 

ふと横を見ると柳川さんが黙って立っていた。

 

「ぶん殴りたかったろう、

   よく我慢した金ちゃん。

   俺たちの姫の仇は

   俺たちがとるぜ」

 

そう言うと柳川さんはすぐにその場を離れた。

柳川さんも悔しいだろう。

 

 

僕は喫煙所でイライライラする気持ちをおさえて「松下幸之助」の

『素直な心になるために』

という本を読んでいた。

 

松下幸之助は言う。

「青春とは心の若さである」

 

肉体は老いようとも心はいつも青春でいようと誓った。

 

Gショックがピーッと鳴った。

午前2時。

僕は非常口へと向かうと皆んな揃っていた。

 

 

 

最後の夜である。

最高の夜である。

僕達は最後の足並みをそろえた。

 

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