アルコール中毒ROCK

酒と病気と音楽と人生を転がり倒す。

27.『26歳』最後の冒険-完結-

非常階段の踊り場で柳川さんがコホンと咳を1つして胸を張って言った。

 

「よし、そろったな。

   最後の夜だ。

   ハデにやろうぜ!」

 

「おーっ!」

 

手を振り上げると柳川さんが合図をした。

「出発だ、野郎ども!」

 

「はい!リーダー!」

 

柳川さんを先頭に僕達は非常階段を駆け下りた。僕らも後に続いて非常階段を駆け下りていった。

 

1階の非常口から立体駐車場へと廊下が続いていた。

薄明かりの廊下を足早に立体駐車場へと向かった。

立体駐車場の避難口の鉄の扉の前に着いた。

 

柳川さんは引き戸の扉を開けると中に入った。僕らも後に続いて立体駐車場の中に入った。

 

立体駐車場はグレー色の鉄骨建てで屋上入れて3階建てだ。1階と2階は面会者用駐車場になっていて屋上の屋根の無い吹きさらしの3階は病院職員専用の駐車場らしかった。

 

「でも柳川さん、なんで公園じゃなくて、

   立体駐車場で花火するんですか?

   バレませんか??」

僕が質問するとえみちゃんと大ちゃんゴマちゃんも「うんうん」とうなづいた。

 

柳川さんは答えた。

「俺を信じろって!」

 

僕らは「はい!」と返事した。

 

「3階まで一気に上がるぞ!」

柳川さんは走りだした。

 

「えー!職員駐車場にー!?」

 

僕達の走る音が立体駐車場に響き渡った。

 

 

 

 

屋上に出ると夜空の星たちが僕らにふりそそいでくるようだった。

北斗七星が煌々と光り輝いていた。

 

「さてと、」

柳川さんはぽつぽつと止まっている車を物色しだした。

僕らはその様子を不思議そうに見つめた。

 

「これだ!あったぞ!」

柳川さんが見つけた車は黄色のフェラーリだった。

 

「すげー!黄色!趣味悪っ!」

僕らは物珍しげに黄色のフェラーリを見ていた。

 

「柳川っち、このフェラーリがどうしたの?」

えみちゃんが聞くと柳川さんはバックから大量の打ち上げ花火を取り出した。

 

「さあさあ、キミ達!

   この趣味悪い車の上に花火を並べなさい」

柳川さんは打ち上げ花火をフェラーリのボンネットの上に並べだした。

僕らも言われるままにフェラーリのトランクや屋根に花火を並べた。

 

打ち上げ花火をすべて並べ終わると今度は長いタコ糸みたいな物を打ち上げ花火の導火線に結び始めた。「ほら!キミ達も!」

僕ら何が何だかわからずにとりあえず手伝い始めた。10分くらいで作業は終えた。

 

「さて、

   呑もう!」

柳川さんはバックからキタロウくんが前に用意したバーボンの残りとプラコップを取り出し地面にどかっとあぐらをかいた。

 

「柳川さん!一体なにをするんですか??

   教えてください!」

僕が柳川さんに詰め寄るとえみちゃんが柳川さんに言った。

 

「柳川っち、この車ひょっとして、」

 

「正解です、お姫様」

柳川さんはバーボンをクイッと呑んだ。

 

僕はやっと理解した。

「サカイの。。!」

 

柳川さんは不敵に細く笑んだ。

 

「言ったろ?

   仇は打つと」

 

 

 

 

僕達は最後の夜の宴を始めた。

ゴマちゃんは酔いはじめて上機嫌だった。大ちゃんは柳川さんからおちょくられるのを喜んでいる。

 

「金ちゃん、

   とうとう皆んなでの最後の夜だね」

少し酔っているように見えたえみちゃんはいつものように笑顔だった。

 

僕は北斗七星を眺めながら言った。

「またいつかきっと皆んなで会えるよ」

 

「そうだね、

   キーホルダー、

   ずっと大切にするね!」

えみちゃんはそう言うとバーボンを口に運んだ。

 

僕はGショックを見た。もうすぐ4時になろうとしていた。

 

大ちゃんとゴマちゃんとじゃれあっている柳川さんに僕は質問した。

「柳川さん、いつ花火に火をつけるんですか?

   4時になりますよー!

   もうすぐ明るくなりはじめますよ!」

 

柳川さんは首を僕らの後方にブンッとふった。

「きなすった。

   姫の仇が」

 

僕達は一斉に後ろをふりむいた。

 

屋上の入り口のドアの前にサカイ看護師がすごい形相で立っていた。

 

 

「お、オマエらあ!なにやってる!」

サカイ看護師が怒鳴った。

えみちゃんが僕達の後ろに隠れた。

 

「それになんだ!この手紙は!!

   『フェラーリ見に5時に駐車場にいきます』

   だとお!まだ4時なのにオマエらいるじゃねーか!」

 

柳川さんが前に出た。

「5時ってかいたらお前4時くらいにくるだろ。

   お見通しなんだよ猿頭が」

 

「オマエらあ!!」

サカイ看護師がこちらに向かってきた。

 

「止まれ!

   フェラーリの上の大量の花火を見てみろ。

   近くと火、つけるぞ」

柳川さんはジッポに火を灯した。

 

「こ、こんなことしてオマエらタダじゃすまないぞ!」

サカイ看護師がまた怒鳴った。

 

「ただですまないのはお前の方だサカイ」

柳川さんはえみちゃんに目配せをした。

 

えみちゃんは勇気をふりしぼって叫んだ。

「サカイ!あんた私の胸とお尻触ったじゃない!」

 

サカイ看護師が一瞬ひるんだがすぐに切り返してきた。

「しょ、証拠は!!証拠が無いだろ!!」

 

柳川さんはため息をついて、

「無知は罪だねー」

といい話しを続けた。

「院内カメラはな、

   女子トイレもバッチリ撮っているんだよ!

   愚か者が!!」

 

サカイ看護師は声を絞り出した。

「か、カメラだろ!?シグサまでわからないだろ!」

 

「やれやれ、サカイ。

   お前のクズ加減にはほとほと呆れたぜ」

柳川さんは花火の導火線に火をつけようとした。

 

「ま、まて!!

   そんな映ってるかわからないカメラの事で

   車焼いたらオマエら逮捕だぞ!??」

 

「じゃあ俺たちはお前のフェラーリと心中するよ」

導火線に火を近づけた。

 

 

「わ!わかったー!!

   わかったからあ!

   触ったよ!

   そのえみって女の胸とケツを触りました!!

   嫌がってるのに!

   えみさん!

   すいませんでしたー!!!

   オレが悪かったーー!!!」

 

 

柳川さんはニヤニヤしながらまだ導火線に火をさっきより近づけた。

 

「な!?

   全部言ったのに車焼いたら、

   オマエら逮捕だぞー!!」

 

「いーや、

   このクソ車を焼いたのはお前ということになるさ。

   お前は俺達が車を焼いたとは誰にも言えない」

 

「な!?は?!?」

 

柳川さんは左手に四角く黒い箱みたいのをサカイ看護師に見せてその箱についているボタンを押した。

 

『、、ザ、ザーッ、

 

   

   わ!わかったー!!

   わかったからあ!

   触ったよ!

   そのえみって女の胸とケツを触りました!!

   嫌がってるのに!

   オレが悪かったーー!!!

   えみさん!

   すいませんでしたー!!!

 

  ザーッ、、』

 

 

ボイスレコーダーだよクソ野郎」

 

柳川さん吐き捨てた。

 

成敗!

 

 

サカイ看護師はガックリしゃがみこんだ。

 

 

 

「わああっ!!☆!」

僕らは大歓声を上げた。

 

柳川さんは叫んだ。

 

「It’s Show Time!!」

 

導火線に火がついた。「ヒイッ!!」とサカイ看護師がこっちに走ってきた。

 

 

「ババババババババーーーーッ!!!」

 

「皆んなクソ車から離れろー!」

 

 

「ちゅどーーん!!

   ちゅどーーん!!」

 

黄色のフェラーリが炎に包まれた。

大ちゃんが叫んだ。

「た〜まや〜〜」

 

皆んなが大ちゃんに続いた。

「かーじやーー!」

 

「オ!オレのフェラーリがーー!!

   燃えているーー!!」

 

「そうだ!

   お前のフェラーリは燃えているぞ!

   綺麗だろー!はーっはっはっー!!」

 

 

柳川さんが地獄の業火の番人に見えた。

 

 

えみちゃんが叫んだ。

『おれたちに明日が無くともー!』

 

皆んな続いた。

「俺たちに明日が無くともー!」

 

『おれたちの病気が治らずともー!』

 

また続く。

「俺たちの病気が治らずともー!」

 

『例えばらばらになろうともー!』

 

「例えばらばらになろうともー!」

 

えみちゃんはギターのキーホルダーを夜空にかかげた。

僕らもキーホルダーをかかげた。

 

『俺たちはいつまでも共にある!☆!』

 

 

 

 

僕達の最後の冒険は幕を閉じた。

夜空に皆んなのキーホルダーがキラキラと星空に同化した。

 

 

 

 

 

 

金曜日の昼下がり。

またしてあるタクシーの前で皆んなと握手をした。

「ゴマちゃん、モデル頑張ってね!」

「いえっさー!」

 

「大ちゃん、夜は早く寝るんだよ!」

「う、うん!かねちゃんもー」

 

「えみちゃん、いつかまたアイスコーヒーつくってね!」

「うう、うわーんうわーん!」

 

「柳川リーダー僕リーダーみたいになります!」

「100年はえーよ!」

 

僕達5人は嗚咽が出るくらい号泣した。

僕はギターキーホルダーを思いっきり振り回した。

皆んなもキーホルダーを空に思いっきりふりあげた。

 

「皆んな、またどこかで会う日まで!!」

 

 

タクシーに乗り込むと皆んなが僕の名前を叫んだ。僕も皆んなの名前を叫んだ。

タクシーは発進した。

僕は後ろをふりかえらなかった。

 

 

 

 

 

皆んな、またどこかで会う日まで。

 

https://m.youtube.com/watch?v=NXWKoGGx9l8

 

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