28.『26歳』ひーことりん。
僕が入院している時、
瞳ちゃんは自分専用のノートパソコンを購入して僕の真似をしてヤフーチャットをしていた。
IDは『hi_co』
「ひーこ」と読むらしかった。
瞳ちゃんには僕のチャット仲間の話しをしていた為自分でりんの「芋部屋」に行き、りんと仲良くなっていたのだった。
チャットでの瞳ちゃん演じる「ひーこ」は男勝りでりんはひーことどんどん仲良しになっていき、りんはひーこをかなり気に入っていた。
8月中旬。
退院して半月が経った僕はパソコンの前に座りCG202と缶ビールを呑みながら毎日「芋部屋」にいた。チャット仲間達と会話するのはもちろん楽しかったがとくに「りん」と話すのが毎日の楽しみになっていた。
「ひーこ」を演じる瞳ちゃんも寝室から自分のノートパソコンで芋部屋に入室してはりんや僕達チャット仲間と会話を楽しんでいた。
「ザラ」を演じるタロちゃんもたまにチャットに混ざって夜な夜な僕達は芋部屋を楽しんだ。
僕はこの頃音楽カテゴリーに
『闇』
と名付けた自分の部屋を作成していた。
僕の部屋には芋部屋の常連
「じょじょ」
とザラ演じるタロちゃんと
瞳ちゃん演じるひーこ、
そしてチャットで知り合った音楽仲間が「闇」に遊びに来ていた。
この頃から僕と瞳ちゃんはチャットでしか会話をしなくなっていく。
8月下旬。
僕が退院したこともあって瞳ちゃんは居酒屋でパートを始めた。
夜、子供達が眠る9時から午前0時までの3時間だった。
チャットをしながら瞳ちゃんの帰りを毎日待っていたが帰りは2時になり、やがて朝方まで帰ってこなくなった。
僕はもう瞳ちゃんがなにをしようが知ったことではなかった。
瞳ちゃんにも「青春」といった物語がきっとあるのであろう。
僕はそう思いながら毎晩りんの芋部屋や闇部屋でチャットを楽しむ毎日であった。
子供達は小学2年と幼稚園年長さんになっていた。
夏休みだった子供達を連れて家の近くにある公園で3人で花火をした。子供達ははしゃぎまわって夏休みの花火を楽しんだ。
2人とも「ママは?」とは言わなかった。
ヒズミが入っていく家族に綺麗な花火がパチパチと音をたてていた。
子供達には何にも罪は無かった。
Gショックがピーッと鳴った。
4時。
僕ら3人の家族は手を繋いで夏の朝靄を空気を感じていた。
「帰ろうか」
パパである僕が子供達に言うと子供達は寂しげに僕を見つめた。
僕達家族3人はもう少し公園にいた。
夏の最後の思い出だった。
打ち上げ花火がとても綺麗だったのを覚えている。
子供達は知らず間に大きくなっていた。
もうしばらく一緒にいたい。
僕は強く願った夏休みの明け方。
子供達の笑い声が公園に響いていたのだった。
https://m.youtube.com/watch?v=pYk8Tk_qr40