アルコール中毒ROCK

酒と病気と音楽と人生を転がり倒す。

30.『26歳』タロちゃんの夏休み-完結-

網の上で焼いたキスを1番にタロちゃんが口に運んだ。

 

「うーまい!うまいよ!金ちゃんも食べて!」

 

僕もタロちゃんが釣り上げた焼きたてのキスをいただいた。

「ほふほふ!うまっ!ビールビール!」

 

僕とタロちゃんが騒いでいると家族連れのお父さんらしき人が近づいてきた。

 

「あのー

   私達が釣った魚もサバいて子供達に

   食べさせてはもらえないでしょうか。。」

 

僕とタロちゃんは二つ返事で「もちろんですよ!」と答えた。

お父さんの家族は、

お父さんと奥さんと

小学生の女の子と男の子の4人家族だった。

家族が持ってきた魚はコッパグロ(クロという魚の幼肴)やハゼ、キスだった。

 

「タロちゃんはばんばん魚釣っていいよ!

   僕が魚サバいてるから!」

 

「わかった!じゃんじゃん釣るからねー!」

 

タロちゃんはキス釣りを始めた。

僕は家族が釣った魚をどんどんサバいて焼き網に並べた。

お父さんが紙皿と割り箸を僕に差し出した。

 

「これをよかったら使って下さい。

   近くの公園でバーベキューする予定でした」

 

僕は御礼を言って魚を焼いた。

香ばしいにおいがしてきた。

 

「お父さん!焼けましたよ!

   奥さんとお子さん達と食べてみてください!」

 

お父さんは頭を下げて焼けた魚を紙皿によそった。

「おいしー!」

「美味しいね!」

「ぼくが釣った魚が1番おいしいよ!」

 

僕とお父さんさんは笑顔になった。

「僕は金田と申します。

   金ちゃんとでも呼んでください。

   釣りしてるのがタロちゃんです!

   遠慮無く釣り上げた魚、焼いてください!」

 

お父さんさんは笑顔で会釈した。

 

「私は『久作』と申します。

   こっちが嫁の『ケイ』、

   息子の『太郎』に娘の『花子』です。

   宜しくお願いします」

 

久作さん家族は一斉に頭を下げた。

できた家族さんだ。

 

「またきたー!金ちゃん!!」

 

タロちゃんがキスやハゼをどんどん釣り上げる。

久作さんは釣り初心者らしくタロちゃんに釣りを教えてもらいながら太郎くんと3人で釣りを始めた。

 

久作さんのお嫁さん「ケイ」さんが僕に言った。

「魚の天ぷらにしましょうか?

   材料はバーベキューセットが車にあるので

   持ってきましょうか?」

 

「本当ですか??

   嬉しいです!

   手伝いましょうか?」

僕が目を輝かせるとケイさんが言った。

 

「ありがとうございます。

   わたし1人で取ってきます。

   待ってて下さいませ」

 

そう言うとケイさんはバーベキューセットを車に取りに行った。

 

僕と花子ちゃんは焼けた魚を食べた。

花子ちゃんが口を開いた。

 

「つり、キライだけどたべるのはすき!

   おにいちゃんは!?」

 

僕は微笑んだ。

「金ちゃんでいいよ、花子ちゃん!

   そうだなー、

   僕は食べるのも釣りも好きだね!」

 

花子ちゃんは魚を頬張りながら「ふんふん」とうなづいた。

 

僕とは少し考えて花子ちゃんに聞いた。

「花子ちゃん、

   誰でもお魚が釣れる仕掛けを作ってあげるから

  花子ちゃんも自分で釣ったお魚食べてみないかい?」

 

「んー、、でもー、、つれなかったらー、」

 

渋っている花子ちゃんに久作さんが言った。

 

「花子!やってみなさい。

   金ちゃんさんに教えてもらいな!」

 

久作さんの言葉に花子ちゃんはもごもごしながらも

「やってみる!」

と返事をしてくれた。

さっそく花子ちゃんの釣り竿に仕掛けをほどこした。

小さなウキと小さな釣り針が6つ付いてある『サビキ針』を付けた。

その下に「カゴ」と呼ばれる小さな網状のオモリ付きのカゴを付けてそのカゴの中に「アミエビ」というエビのプランクトンみたいなヤツを詰め込む。海中の中でカゴの中のアミエビが流れ出しやがて魚が針に掛かるといった仕掛けだ。

これでサビキ釣り仕掛けの完了だ。

仕掛けができた竿を花子ちゃんに渡した。

 

「投げ方はわかるかい?」

 

「わかるー、さっき投げてみた!」

 

花子ちゃんはそう言うとそっと仕掛けを海にむかって投げた。

すぐにウキが沈んだ。

「花子ちゃん!竿を引っ張るんだ!

   魚が掛かったよー!」

花子ちゃんは一生懸命竿を引っ張ってリールを巻いた。

 

「つ、ツレたー!金ちゃん!なに?!この魚!」

 

はしゃぐ花子ちゃん。

「おめでとう!花子ちゃん!

   その魚はアジだね!サバいて食べよう!」

 

花子ちゃんは満面の笑みで「うん!」と返事をした。

ケイさんが鍋と食材なんかを持って戻ってきた。

タロちゃんと久作さんと太郎くんもいっぱいキスやハゼやアジ、コッパグロを釣っていた。

3人は釣りの手を休めて食事の時間にした。

 

僕とタロちゃんは魚をサバいてそれをケイさんが天ぷらにしてくれた。

 

「あらためまして、

   乾杯の音頭をとらせていただきますタロです」

 

タロちゃんがカップ焼酎を片手に立ち上がった。僕と久作さん家族は拍手をした。

 

「えー、

   夏も終わります。

   最後の夏休みを皆さん、楽しみましょう!

   乾杯!!」

 

「かんぱーい!!」

 

酒盛りが始まった。

太郎くんと花子ちゃんはタロちゃんに魚のサバき方を習っていた。僕と久作さんとケイさんは子供達の夏休み談義に花を咲かせていた。

 

 

「あのー、、」

 

後ろから声をがして皆んな振り返った。

そこには多分ホームレスであろう2人組の小柄な中年男が自転車にまたがりカゴに大きな魚を入れて立っていた。

 

「これ、今釣りました。

   仲間に入れてもらったりできないですよね、、」

 

タロちゃんは「もちろん!」と元気よく言った。僕は久作さんとケイさんを見た。

2人とも笑顔でうなづいてくれた。

僕は2人のホームレスが持っている魚を見た。

「スズキじゃないですか!

   ルアーで釣ったんですか!?」

 

2人は恥ずかしそうにうなづいた。

「釣り好きに悪い人はいませんよ!

   ささっ!こちらに座ってください!

   お酒呑みますか?」

 

 2人はまた恥ずかしそうにうなづいて言った。

 

「スズキ、自分らがサバきます」

 

僕とタロちゃんはうなづきながらサバイバルナイフを渡した。

2人は手際よくスズキをサバきだした。

 

サバいている2人に僕は名前を訪ねた。

「僕は金田、金ちゃんでいいです!

   こちらが幼なじみのタロちゃん。

   この家族の方達は久作さん家族です。

   お2人のお名前聞いてもいいですか?」

 

2人はコソコソと話し合い自己紹介を始めた。

 

「自分は『サル』と申します。

   こいつは『キジ』であまり口をきけません。

   宜しくお願いします」

 

僕達はおーっと拍手をした。

 

タロちゃんが2人に焼酎と缶ビールを渡して言った。

 

「どちらでも呑んでください!」

 

頭を下げながらサルさんは焼酎、キジさんは缶ビールを受け取った。

サバいたスズキはケイさんが塩焼きにしてくれた。

タロちゃんがカップ焼酎を握りしめて元気よく言った。

 

「あらためまして!

   出会いと夏休みに、

   かんぱーい!」

 

「かんぱーい!!」

 

皆んなキューっと酒を煽った。

太郎くんと花子ちゃんはジュースで乾杯した。

 

香ばしい香りがしてきたスズキの塩焼きを皆んなでつついた。50センチくらいのスズキだった。

 

わいわいとまた酒盛りが始まった。

 

「サルさんとキジさんは毎日何をしてるんですか?」

 

タロちゃんの質問に僕はヒヤリとしたがサルさんは笑顔で答えた。

 

「平日は港に立って、

   日雇い人夫をひろいにくる車を待ってますよ

   日曜日はこうやって釣りをしてます。

   住まいは港にの近くの捨てられた車の中で

   キジと一緒に寝泊まりしてますよ」

 

ほむほむと僕達はサルさんの話を聞いていた。

僕達はサルさんにどこの人夫出しに行っているか聞いた。サルさんは焼酎を呑みながら答えた。

 

「西海工業というところで『吉組』といった

   会社に勤めていました」

 

「吉組!」

僕は思わず缶ビールを吹いた。吉組とは金田組を引き継いだ吉さんの組の名前である。

サルさんが続けた。

 

「けど不渡りを出して倒産したみたいで

   最近は自分ら仕事にアブれてるんですよー」

 

なんと、

僕の会社は潰れていたのであった。

僕はすっかり落ち込んでしまった。

タロちゃんが僕の肩を叩いて言った。

 

いい日旅立ち、だよ」

 

「なにそれ!!

   意味わかんないよ!

   なにいいこと言おうとして失敗してるの!!」

 

タロちゃんはゲラゲラ笑った。

僕も笑顔になった。

終わったことだ。もう仕方がない。

 

   

 

太陽がだいぶ西へ傾いた。

 

「金ちゃんさん、タロさん、

   今日は本当にありがとうございました。

   子供達に素敵な夏休みをプレゼントできました。

   私達はそろそろこのへんで」

 

久作さん家族は深ぶかと頭を下げて帰る支度を始めた。

 

「自分らも明日から仕事だから

   おいとまします。

   金さん、タロさん、この恩は忘れません」

 

サルさんとキジさんも頭を下げた。

 

夕方の太陽に照らされた僕達の影が防波堤に輝いていた。

皆んなを防波堤下まで送っていく。

 

「またどこかで会いましょー!」

 

僕の声が夏の海に響いた。

 

 

 

残された僕達とタロちゃんは目を合わせた。

「これからどうする?タロちゃん」

 

タロちゃんがニヤリと笑った。

 

「夏休みはまだ終わらないよ!!」

 

 

 

僕達は竿を抱えて赤灯台まで走っていく。

今年最後のタロちゃんの夏休みだった。

 

波の音がとても静かだった。

  

https://m.youtube.com/watch?v=fylbpRe_z40

 

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