31.『26歳』石川で生まれた女-前編-
12月。
瞳ちゃんは毎日朝方に帰ってくるようになった。2度目の浮気だった。
僕は瞳ちゃん別れたいか聞くと瞳ちゃんは「別れたい」と言った。
子供達は僕が面倒見ると言うと「金ちゃんは今無職だから親権は私にある」と言われぐうの音も出なかった。女は恐ろしい。
瞳ちゃんが用意した離婚届にサインをすると僕はリュック1つで原付バイクで東区の実家に帰ることになった。釣り道具とパソコンだけはタロちゃんが車で運んでくれた。
小雨が降るクリスマスイブの出来事だった。
実家に帰った僕は次の日に求人広告を見て実家の近くの人夫出しに働きに出た。
年末年始も仕事があったので休まずに働いた。
瞳ちゃんの両親が子供達を僕に合わせてくれず、家族を失った僕よりも孫を失った僕の母親を思うと切なかった。
僕は寂しさを紛らわせる為に毎日焼酎の「いいちこ」とCG202を呑みながらパソコンに没頭した。
その日はいつもの「芋部屋」が無く色んなチャット部屋をウロウロしていると
IDが『ayan』という女性からチャットでの顔文字の出し方を聞かれた。チャット初心者であろう彼女に「顔文字サイト」を教えてあげるとたいそう喜んで会話もはずんだ。
お互いの住んでいる地域を教え合い携帯メールアドレスも交換した。僕は寂しかったのである。
「ayan」という子は26歳で石川県に住んでいた。
僕は「アヤ」と呼び、毎日メールでチャットでの待ち合わせをして会話したものだ。
チャットや携帯で話すかぎりはとても素直で活発な女の子だった。
「かのんの趣味はなあに?」
「んー、音楽聴いたりギター弾いたりかなー」
「ギター!いつか聴かせてよ!」
「いつかね!」
「カラオケも行きたい!」
「いつか行こうか!」
ある日アヤがチャットで、
「私、かのんに会いに福岡まで行く!
ギター聴かせて!」
と驚くことを言ってきた。
前も話したようにこの頃のヤフーチャットにはカメラやボイス機能が無くお互いの顔が見れない。携帯で話しをして声は知っていたがあまりに無謀な行為に僕はアヤに言った。
「アヤ、そんな簡単にチャットの男と
会うのは危ないよ!」
「大丈夫!かのんの住所まで聞いてるんだから
善は急げ、今週の土曜日に福岡行くね!」
おいおい、
この子大丈夫か?
と思いながらも結局今週の土曜日に博多駅で待ち合わせに決まった。
アヤは石川県の小松空港から福岡空港まで来てそれから地下鉄で博多駅まで来る。
時間とルートを教えてそれをアヤは手帳にメモした。携帯があるとはいえスマホはまだ無く結構アナログであった。
1月下旬、アヤと会う日がやってきた。
僕はアコースティックギターを担ぐと待ち合わせの午後6時に間に合うように博多駅へと向かった。
博多駅には滅多にいかない僕は人混みを縫うように歩いた。
博多駅は「博多口」と「筑紫口」の入り口が2つがあり僕とアヤは博多口での待ち合わせであった。
Gショックは5時50分をつげた。もうすぐだ。
僕の携帯メール音が鳴った。
「かのん、今博多駅に着いたよー
博多口に向かうね!」
僕はすぐに返信した。
「Re:はーい。気を付けてねー」
お互いの服装を教え合っていた僕達。
僕は黒のダッフルコートにブラックジーンズに銀髪。
アヤは白のフェイクファーのコートに茶髪のポニーテール。
携帯が鳴った。アヤからだ。
「もしもし!かのん、背が高いね!
私からはもうかのんを見つけたよ!
かのんカッコいいじゃん!」
僕は照れながら周りをキョロキョロした。
フェイクファーフェイクファー、、
ポニーテールポニーテール、、
「アヤ、どこ!?小さいから見つからない!」
クイッと僕は背中のギターを引っ張られた。
そこにはほっぺを赤くしいる小さな女の子が立っていた。
僕達はしばらく照れながら博多口の人混みから離れた。
「かのん、
はじめまして!」
「アヤ、はじめまして」
予想通りアヤはグイグイくるタイプだった。
グイグイくる女の子が苦手な僕は「この子もどうせすぐに離れていくんだろな」と思っているとアヤがはしゃいで言った。
「どこかお洒落なお店連れていって!
アヤ、パスタ食べたい!」
このやろう、ぺヤングでも食っとけ。
「この辺詳しくないから名島ってところの
カラオケ行こう。カラオケの中で食べようよ」
「私、カラオケはシダックスじゃないと嫌ー」
この女ダメなタイプだ。福岡まで知らない男にひょいひょい会いにくる女だっけ。
バックれるか?
「かのん!タクシー止めたよー!」
うおい!タクシー移動かよ!
仕方なくタクシーで4千円くらい使って名島町のカラオケ「シダックス」に向かうはめになった。