アルコール中毒ROCK

酒と病気と音楽と人生を転がり倒す。

33.『27歳』夜桜の恋。

春が来た。

日雇い労働者だった僕は元請け会社の

『夢田組』

という鳶、土工会社から引き抜きにあった。

月給25万円で会社から徒歩1分の所に会社が借りているアパートがありそこに住めるといった好条件だった。部屋は2階の203号室でロフト、簡易照明付きで天井は4メートルあった。

社員は13人で皆んな一癖も二癖もありそうな連中だったが気にも留めなかった。

同じ歳の鳶経験1年の『トモくん』という子がやたらとなついてきていた。

彼とは長い付き合いになるとはこの時は思っていなかった。

 

 

今日は仕事が終わると僕は以前から話に出ていたチャットのオフ会の日であった。

福岡市の大名町という所の居酒屋で皆んな待ち合わせだ。僕は仕事が少し遅くなるから皆んなに先に始めておいてとメールをして仕事が終わるとタロちゃん(ザラ)と待ち合わせして大名町の居酒屋へと急いだ。愛車のワゴンRを買ったのもこの頃だった。

 

途中で道に迷い芋部屋の主「りん」に電話をすることにした。

りんと生声で話すのは初めてでめちゃくちゃ緊張した。

 

トゥルルルーッ

 

カチャ

 

「もしもし、かのん?おつー」

 

僕は慌てて隣にいるタロちゃんに「りんが出たー!りんがー!」と叫ぶとタロちゃんは冷静に

 

「うん、電話したら出るよ」

 

と言われた。

「り、りん、?」

 

「そうだよー、今どこー」

 

「わ、わかんない!」

 

「ぶ

   わかんないじゃないわよアータ笑」

 

結局タロちゃんに電話変わって場所を聞くことになった。僕達は無事店の近くまでたどり着いた。

りん達は先に呑んでいるらしく着いたら電話くれたら迎えに出てくるとのことで着いたことを電話して迎えを待っていた。

 

煙草をタロちゃんとふかしているとクタクタのTシャツによれよれのジーパンでゾウリを履いたヒゲのおっさんが現れた。

 

「かのーん、ザラー」

 

芋部屋の常連の「じょじょ」だった。

僕とタロちゃん(ザラ)と同じ歳には全く見えない。

 

「まあまあ早く上がれよ!

   俺んちじゃないけどな!!

   なーんちゃってな!がーっはっはっー!!」

 

なんか薬でもやってんのかとか思いつつ僕とタロちゃん(ザラ)はじょじょに案内されて店の中に入った。場所は座敷だった。座敷の上座にりんらしき女性が座っていてその斜め前にダルマみたいな奴が座っていた。

 

「とりあえずかのんもザラも座って座って!」

 

とじょじょが言い僕は上座のりんの横に座りタロちゃん(ザラ)はそのまた横に座りじょじょはりんの前に座った。

 

ダルマは僕が入院している時に芋部屋の常連になった年齢不詳のおっさんで握手をしてきたので握手したがタロちゃん(ザラ)はダルマの握手を無視した。

 

自己紹介もほどほどに僕達は乾杯することにした。

 

「えー、では皆んなの出会いと

   ダルマが握手無視されたことにー乾杯!!」

 

「かんぱーい!」

 

オフ会は本当に楽しみにしていたので楽しくて仕方なかった。あと、りんの横に座れたのも正直嬉しかった。身長は160くらいで赤メガネをかけており髪は綺麗な黒髪でショートボブ。唇が薄くて凛とした美人だったのが第一印象だった。偶然にも誕生日が1日違いだ。

僕はオフ会でりんに会ったら『TYO』という歌唱力抜群の女性ボーカルユニットのCDをプレゼントすると約束していて約束通り『TYO』のシングルをプレゼントした。りんは少しはみかむと、

 

「ありがとう、かのん♪」

 

と可愛く笑った。チャットだけではなくリアルでも素敵な女性だった。

喜んだかは別として素敵な曲は皆んなに聴いてもらいたいものである。

 

 

 

余談だが今、ネットで『TYO』を聴けるか検索してみたが電子の海には漂ってはいなかった。

僕はドリカムより歌が上手いと勝手に思っている。それを言い出すと『PSY・S』もいいものだなー。

 

 

 

宴会は盛り上がり僕とタロちゃん(ザラ)のじょじょイジリも始まった。イジられるじょじょも嬉しそうに僕らにツッコミを入れてきてそれを見ているりんとダルマも爆笑していた。

僕達はみんな福岡だったがダルマだけ関東から出張で福岡に来ていたのだった。

 

じょじょが皆んなに、

 

「ここはこのへんにして

  カラオケに行こうぜー!」

 

と提案した。僕達も賛成して居酒屋を後にした。皆んなでワイワイ話しながら大名町にあるカラオケボックスに着いた。

居酒屋の会計を先にすっと皆んなの分を出したりカラオケ店員との掛け合いをスムーズにこなしたりするじょじょを見ていて尊敬できる男だなと心を開いた。

じょじょともこれから親友として付き合っていくことになるのだった。

 

カラオケボックスは3人がけのソファと2人がけソファと1人用の椅子が1つあった。

じょじょとダルマが3人がけのソファに座り僕とりんが2人がけソファに座ることになった。タロちゃん(ザラ)は1人用の椅子に座った。

 

じょじょはカラオケボックスでもハイテンションで歌っている皆んなに間の手を入れて場を盛り上げた。

 「別腹別腹!」と言いながらさっき居酒屋で結構食べたがピザや唐揚げを注文してパクパク食べてガブガブ酒を呑んだ。

 

酔いが回ったのかじょじょがりんに、

 

「ダルマ、彼女いないから

   りんちゃんダルマの横にきてあげなー!」

 

と連呼し始めた。りんは初めは「いや、いいよ」と優しく断っていたがあまりにしつこいじょじょにキレた。

 

「かのんの横がいい!!!」

 

場が凍りついた。

じょじょが「すまーん」とあやまった。

僕はりんの顔を見れなかった。

 

後にりんはこの時の事を「しまった!と思ったー」と笑いながら話していた。

 

 

凍りついた部屋にタロちゃん(ザラ)が入れた

『走れコータロー』がマヌケに流れ出した。タロちゃん(ザラ)は立ち上がった。

 

「それでは〜じょじょの〜

   マヌケな失敗に皆さんかんぱ〜い!」

 

皆んな爆笑した。

 

 

 

これから始まる大レースー

走れー走れー

コータロー

ほんめー穴馬かきわけてー♬

 

 

 

じょじょが一気に元気を取り戻してヒャーヒャー叫んだ。

 

「ザラー!愛してるよー!!」

 

りんもケラケラ笑っていた。

僕は複雑な気持ちだった。

ダルマが嫌だからあんな風に言ったのか。

それとも。。

愚かな男の妄想である。

 

タロちゃん(ザラ)のナイスな場の取り繕い曲が終わった。

 

りんの番が回って来た。

スピッツ

『チェリー』

だった。素敵な曲だ。

 

 

キミを忘れない

曲がりくねった道を行く

 

 

りんはどんな恋愛をしてきたのだろう。

そんなことを考えながらりんの『チェリー』を聴いていた。

 

宴もたけなわ。

じょじょが言った。

「最後に皆んな知ってる歌を皆んなで歌おう!」

僕がすぐ答えた。

「B'Z」の

『あいかわらずなぼくら』はどう?

じょじょが「いいねー!」と賛同した。

他の皆んなも「歌おうか!」と言ってくれた。

じょじょがササッと曲を入れてマイクを僕とタロちゃん(ザラ)に渡した。

「俺らはマイク無しで歌うから!」

 

 

 

 

今まで好きなこともしたし

たまに我慢もしてきた

アイツはダメだ

なんてキミ勝手に決めないで

余計なお世話だよ

何処にいてもいい

道なんていくらでもある

元気なうちにやりたいこと

見つけ出したいよ

大好きなひとに会いたい時に会えればいいな

まあそんなこと大した問題じゃないよ

いこうよ

いこうよ

あいかわらずなぼくら🎶

 

 

 

 

 

ヒューッ!!とじょじょが手を大きく叩いた。

りんとタロちゃん(ザラ)は少し恥ずかしそうだった。

僕はこういうの嫌いじゃないからじょじょと一緒に盛り上がってハイタッチした。

 

「じゃあ皆んな!また会おう!!」

 

じょじょはそう叫ぶと走って帰って行った。

タロちゃん(ザラ)が、

「アイツ、おれらの会計する気だよ、多分」

 

予想通り会計は終わっていてじょじょの姿はなかった。僕は正直にカッコいいと思った。

 

ダルマは昨日から泊まっているビジネスホテルに帰り、りんはタクシーで帰っていった。

 

タロちゃんと煙草を吸いながらの帰り道、

「タロちゃん、付き合わさせてごめんね」

 

タロちゃんは煙をはいた。

 

「おれの走れコータローよかったでしょ!」

 

僕とタロちゃんはお互い指を指しあって笑った。

 

僕達は春の夜桜を見ようかとなりコンビニで缶ビールと焼酎を買って桜の樹の下のベンチに腰を下ろした。

 

軽くコツンと乾杯をして桜を見ながら酒をいただいた。

 

「今年も焚き火行く?金ちゃん」

 

「行こう行こう!今日のメンバーは??」

 

「じょじょ来たらアイツめんどくさいからなあ」

タロちゃんが笑いながら言った。

 

「今度こそおれが釣るよ!」

 

「タロちゃんは水泳だからねー!」

 

けたけた笑いながら2人で夜桜を見上げた。

しばらくぼーっとしているとタロちゃんが静寂を破った。

 

「あのりんちゃんって子、

   逃がさない方がいいよ」

 

僕はビールを吹いた。

「そ、そんなんじゃないよ!?

   あれはダルマの横に座りたくなかっただけ!」

 

「なにも言ってないのに

   そのこと言うってことは

   やっぱり意識してるねー!」

 

「もう!中学生みたいな冷やかしやめてよ!」

 

タロちゃんの笑い声が夜桜に響いた。

すぐにタロちゃんの顔が真剣になった。

 

「金ちゃんは女を引っ張るタイプじゃないよ、

   あの子は姉さん女房のにおいがする。

   金ちゃんにはあんな女性がいいんだよ?」

 

僕はふむーと考えたがりんみたいな素敵な女性に彼氏がいないわけがないと思った。

しかしタロちゃんの言う通り姉さん女房的な女性がいいと言う意見には耳を傾けよう。

 

タロちゃんは立ち上がって背伸びをした。

 

「そろそろ帰ろうか!金ちゃん!」

 

「うん!」

 

 

 

僕とタロちゃんは他愛もない会話をしながら夜風に当たりそれぞれの帰路へと向かっていった。

 

 

恋の始まりだった。

 

 

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