アルコール中毒ROCK

酒と病気と音楽と人生を転がり倒す。

39.『28歳』土砂降りの中の地足場組み。

8月下旬。

この日は雨の中の足場地面組みと相成った。

広さんとトモくんと3人で現場に出向き人夫出しの西海工業からは5人の職人が来ていた。

 

朝礼、KY活動が終わり8人で足場組みに入った。出窓が多い新築マンションで地組みは困難を要した。しかしさすが広さん、さっさと地足場を組んでいく。トモくんは相変わらずその辺をウロウロしているだけだった。邪魔だ。

10時の休憩になり皆んなで詰所に入った。

広さんが僕を呼んだ。

 

「金田、俺は詰所に居るから後はお前が組め」

 

僕ははっきり「はい!」と返事をした。トモくんはブーたれていた。

一服が終わり雨の中図面を持って僕達は詰所を出た。西海工業の5人と地足場を組み出した。トモくんは放っておいた。何やらブツブツ言ってるが無視だ。できない奴はいつまで経ってもできない奴の見本だ。

 

南面を組み終わり次に西面を組み出した。雨は土砂降りになり雨がっぱの隙間から雨が入ってくる。雨がっぱを着ていても皆んなびしょ濡れだ。1人のバカを除いて。

 

詰所から広さんの声が聞こえた。

「おーい!昼飯だぞー!」

僕達は作業の手を休めて昼休みにした。

広さんが話しかけてきた。

 

「どこまで組めそうや?」

 

僕は少し考えて、

「西面はすぐ組み終わります。

   そのまま北面のロングエレベーターまで組みます」

 

広さんはうんうんと頷くと愛妻弁当を食べ出した。

夢田組の社長夫人から広さんは「うつ病」と聞いていた。何でも広さんの奥さんは心臓が悪いらしく常に気を使っていて広さん自体もまいってしまったらしい。僕は広さんに楽してもらおうと必死で働く決意をした。愛妻弁当を食べる広さんの背中に哀愁を感じた。

「広さん、午後からもゆっくりしてて下さい。

   僕がちゃんと組んできますから!」

意気込む僕に広さんは「うんうん」と頷いた。

 

昼休みが終わる5分前僕は安全帯を装置した。

西海工業の職人も用意した。トモくんは相変わらず寝ていた。

「さあ、組もうか!」

一斉に作業に取り掛かる。

西面をあっという間に組み終わり北面に入った。北面は作業員の昇降や資材を荷揚げする為の幅7メートル程のロングスパンエレベーターというのか取り付けられる。その間は足場を飛ばす事になる。北面に入りロングスパンエレベーターの幅だけ足場を飛ばしてまた地足場組みをする。

北面を組み終わる頃詰所から広さんの声だけ聞こえた。

 

「そろそろ終わるぞー!片付けろー!」

 

僕達はキリがいい所まで組み終わると散らかった資材を片付けに入った。

 

作業が終了して西海工業の職人は日報にサインをもらい帰っていった。

広さんは組み終わった足場を眺めて満足そうにうなづいていた。

トモくんが駐車場に現場車を取りに行っているときに広さんが言った。

 

「トモは使い難いだろうが、

    アイツにも家庭がある。

    金田、頼むぞ」

 

僕は深く頭を下げた。

僕達は現場車に乗り込んで今日の作業を終えた。

 

でもイラつく奴はイラつく!

と正直に思ったのであった。

 

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