アルコール中毒ROCK

酒と病気と音楽と人生を転がり倒す。

44.『29歳』スケボー少女ゆき。

朝も早よからご苦労さん。

朝だよ。

僕の病室は4人部屋だが僕ともう1人しかいなくそのもう1人も長期外泊で個室みたいなもので気楽だ。

 

目覚めの一服をしに喫煙所に行くとえみちゃんが僕を待っていた。

 

「金ちゃん、アイスコーヒー作ってくるね!」

 

そう言うと僕の持参の銀のコップを持って病棟の台所に走って行った。

遅れて柳川さんがやってきた。

「リーダー!おはようございます!」

柳川さんは笑いながら「おはー」と言って一服した。

僕は柳川さんにみーちゃんのことを話した。

柳川さんは一緒に喜んでくれたがえみちゃんにはそのことは話すなと口止めされたのでえみちゃんには言わないことにした。女心は難しい。

 

えみちゃんがアイスコーヒーをこぼさないようにゆっくり帰ってきた。

大ちゃんは起きるのがいつも遅いのは変わってないようだ。

ユウイチロウがちーちゃんを連れて喫煙所にやってきた。

ユウイチロウ!ちーちゃん、おはよう!」

 

「金ちゃん、柳川さん、えみさん

   おはよう」

 

ユウイチロウはいつもテンションが低い。なんでも重度の鬱らしい。ちーちゃんは相変わらず大人しい。

 

「今日はゆきちゃんが帰ってくるね!

   金ちゃん、お初だね!」

 

えみちゃんが嬉しそうに言う。

柳川さんが改めてゆきちゃんの説明をした。

 

「ゆきちゃんはな、

   ちょっと特殊な病気でな、両親はいなくて

   親戚から病院にあずけられてるんだよ。

   その親戚とここの病院の院長が

   親しい間柄らしくて病院側はゆきちゃんに

   めっぽう甘いんだ。

   本当ならずっと閉鎖病棟だが院長の計いで

   昼間は開放病棟に降りてくるんだよ。

   あのスケボー少女には病院も手を焼いてるぜ」

 

「スケボー少女??」

僕は目を丸くした。

 

「まあ、百聞は一見にしかずさ。

   今日のゆきちゃんの帰りを

   楽しみにしてな!」

 

僕のうなずくとすでに朝食の時間で皆んなで朝ごはんを食べた。

食後の薬を飲まされるとあっという間に昼のその時はやってきた。

 

喫煙所はガラス張りになっている。

喫煙所内から煙草を皆んなで吸っているとナースステーションの方から小さな影が「シャーッ」と静かな音を立ててこちらに滑り込んできた。えみちゃんより小さい。

 

ゆきちゃん登場である。

 

「柳川にぃ!えみ姉!皆んな!

   待ちに待ったでしょー!!わははー!!」

 

皆んな喝采が起こった。ゆきちゃんが僕をはっと見た。

 

「だ、誰だキミは!」

 

「彼は金ちゃんだ!仲良くな!」

柳川さんが紹介してくれた。

 

「金ちゃん!よろしくね!ゆきだよ!

   金ちゃんの特技はなんだ!」

 

テンションの高さに少々面食らったが僕は「ちょっといいかい?」と言ってゆきちゃんのスケボーを足でひょいと引っ張ってボードに飛び乗り喫煙所の端から端まで5メートル程走ってみせた。

「おおおおーっ!!!」

皆んなから歓声が上がった。

ゆきちゃんが興奮した。

 

「金ちゃん!チックタックできるですかあ!!」

 

「昔、やってたんだよ。大分へたくなったけど」

 

チックタックとはボードに乗り左右にボードをチックタックと揺らして進むスケボーの初歩の技である。

 

柳川さんとえみちゃんが拍手をしてくれた。僕はかなり照れてしまった。ゆきちゃんが僕の手を握った。

 

「金ちゃん!キミは同士だ!まあ椅子にかけなさい」

 

皆んながゲラゲラ笑った。

ゆきちゃんは背中に背負ったリュックからなんとマルボロライトを取り出してぷかぷか吸い出した。

「ゆきちゃん16だろ!いいけど!」

 

「な!?

   金ちゃんもマルボロライト??

   真似っこー!」

 

「キミ達、漫才はよそでやりなさい」

柳川さんからのツッコミが入った。

 

「金ちゃん!ボードもういっこあるから

   近くの公園まで走ろうよ!!」

 

僕は柳川さんを見た。

柳川さんは笑いながら皆んなに言った。

 

「じゃあ今から近くのファミマで酒買って

   西山公園で再会パーティーしようぜ!」

 

皆んなから拍手が起こった。

 

「金ちゃん、病院の玄関で待ってて!

   ボード持ってくる!」

 

ゆきちゃんはそう言うと風のように去っていった。

 

「じゃあ俺らは先に行ってるからな!金ちゃん!」

 

「わかりました!」

 

僕は病院のロビーでゆきちゃんを待ってるとゆきちゃんがリュックを背負ってスケボーしながら片手にもう一台ボードを持って現れた。

 

「よーし!金ちゃん!

   ファミマまで競争だよ!!」

 

「わかったー!」

 

GO!

 

ジャリジャリッと音を立ててアスファルトの上をボードが滑る。ゆきちゃんは速い。僕も頑張って後に続いた。

 

ザッ!!

 

アスファルトにボードでブレーキをかけて2人ともファミマの前で止まった。

 

「金ちゃん、やるう!」

 

「ゆきちゃんには敵わないよー!」

 

柳川さん達の姿は無かった。先に西山公園に行ったのだろう。

僕は僕とゆきちゃんのビールとお菓子を買い込んだ。商品はゆきちゃんのリュックに入れた。

 

「よし!公園までまた競争だよ!金ちゃん!」

 

僕とゆきちゃんはボードで風を受けながら太陽の下を滑っていった。

 

初夏の光が眩しかった。

 

 https://m.youtube.com/watch?v=us8OhI-OTHg

 

 

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