アルコール中毒ROCK

酒と病気と音楽と人生を転がり倒す。

16.『26歳』仮退院、焚き火-前編-

5月の昼下がり。

僕は病院を外泊することになった。

柳川さん達には1週間くらいで戻りますと伝えて病院を後にした。

入院して5ヶ月になるが家族、親戚は誰1人とお見舞いに来なかったが何故か僕はその方が良かった。身内にはもうウンザリだったからだ。タロちゃんはたまに隠し酒を持ってお見舞いに来てくれていた。

 

退院したのは土曜日で夜はタロちゃんとういちゃんが僕のマンションに仮退院祝いをしにくる予定だった。

夕方まで時間があり僕はさっそくパソコンの前にビール片手に座った。

久々のヤフーチャットである。今日は土曜日だし皆んな仕事は休みかなと思いながらログインした。チャットの皆んなには今日仮退院するとメールは送っていた。

 

りんが部屋主の

「芋部屋」

を探した。

 

「あった!」

僕は喜び勇んで入室した。

 

-- kanon_kamenoサン入室--

 

「かのん!!おかえり!」

「お久ー!かのん!!」

 

皆んなからの久しぶりの挨拶が心に沁みた。

「外泊できたよー皆んなー」

皆んなに挨拶した。酒が進む。

他愛もない会話をしているとチャット仲間の

『じょじょ』が発言した。

 

「近いうちにオフ会しよう!」

 

とのことだった。

オフ会とはネットでオンライン状態でいつも皆んなで会話しているのをネットをオフラインにしてリアルで対面する「会」である。

 

「でも、かのんの本退院が決まらないとかのんが

   オフ会参加できないじゃん」

 

りんが僕に気を使ってくれた。

しかし僕は、

「本退院してから僕は改めてオフ会に参加するから

   皆んなは気にせずに先にオフ会しててー」

とタイプした。

皆んなは「おっけー!」「了解!」とレスポンスが返ってきたがりんは僕に悪いと思ったのか乗り気ではなさそうに感じた。

夕方になり皆んな夕飯落ちになっていくので僕もそろそろタロちゃん達が来る頃だろうとチャットを切り上げた。

 

 

まもなく玄関のチャイムが鳴りタロちゃんとういちゃんがやってきた。

 

 

仮退院祝いは焼肉だった。

僕は肉をさっと焼くだけですぐ食べる人だ。

タロちゃんは肉がカリカリになるまで焼いて食べる。

入院生活の話しを皆んなにしながら食べて呑んだ。

天体観測の話しは入院仲間達だけの秘密にしたくて話さなかった。

 

食事が終わると飲み物をビールから焼酎に変えた。僕は焼酎だけ飲み続けることが苦手でチェイサー代わりにビールも一緒に飲む。

 

その夜は早めにお開きにして日曜日の釣りに備えるべく眠りについた。

 

 

 

日曜日の朝8時。

軽トラックに乗る為に車の鍵を探したが見当たらない。仕方なく瞳ちゃんを起こすと何と軽トラックを義理のお父さんが回収したとのことだった。軽トラックの鍵に付けていた会社の事務所の鍵やユンボの鍵も全て回収されたとのことだった。朝から胸糞悪かった。

 

「金ちゃん、そんな糞みたいな親父のしたで

   無理して働かなくていいじゃん。

   こっちから辞めてやったら?

    金ちゃんが体調良くなったらまた鳶できるんだし」

 

その言葉に勇気をもらった僕は元気を取り戻した。タロちゃんが車を出してくれると言うのでタロちゃんの車で釣りに行くことになった。

 

 

車内の中。

僕はある提案が頭をよぎった。

「タロちゃん、今日釣りじゃないことしない?」

タロちゃんが驚いて、

 

「え!?何するの??」

 

僕は前々からしたかった『焚き火』を提案した。タロちゃんは驚いたがすぐに乗り気になった。

 

「いいね!たまには!どこでする?材料は?」

 

那珂川町の山の中に川が流れてるから

   そこにしよう!ウィンナーなんか食材や

   カッターを買って割り箸をもらって削って

   食材に刺して焼こう!」

 

2人でいいねー!と上機嫌だった。

 

 

燃やす薪は現地調達で一応スーパーで要らない古新聞の束をいただいた。

 

食材は、

ウィンナー

カルビ

豚バラ

ししゃも

ピーマン

エリンギ

塩コショウなどを購入した。

もちろんビールも。

 

 

 

那珂川町の山奥へと車を走らせているとサラサラと川の流れる音が大きくなってきた。

 

しばらくまた走るとちょうど車を1台止められるスペースを見つけた。

そこに車を駐車して川の辺りへと探索しにいく。

「タロちゃん!この場所よくない?」

僕は岩は所々あるものの中々真っさらな川の辺りを見つけた。

「よし、金ちゃんここにしよう!

   落ち葉や枝を手分けして集めようか!」

僕はうなづくと2人で手分けして葉っぱや枝を集めに行った。

 

 

 

1時間くらいだろうか。

2人で集めた葉っぱと枝は山のようになった。

 

地面に丸く穴を掘りその周りに円形状に石を並べて食材を指して焼く割り箸置き場を作った。

穴の中に古新聞を敷きその上に枯葉を巻いてまたその上に細い順の枝を交互に組んだ。

スーパーで買ったジッポのオイルを枝の上からかけてライターでゆっくりと火を灯した。

 

火は瞬く間に燃え広がった。

上手く枝にも火が回りその上から太い枝をまた組んだ。

 

 

「初めてにしては上手くいったねタロちゃん!」

タロちゃんはうんうんと嬉しそうだ。

腰掛けなる岩を用意して腰を下ろして割り箸をカッターで串状に削る。まずはウィンナーから焼くことにした。

 

チリチリとウィンナーが焼けていく。香ばしい香りが辺りを包んだ。

 

 

「そろそろかな?」

「そろそろいいみたいだね!」

 

僕とタロちゃんは熱々に焼けたウィンナーにかぶりついた。

 

「うまっ!!」

「美味しいねー!」

 

夢中でウィンナーをたいらげた。

 

「次は僕は豚バラにするよ!」

「じゃあおれはししゃもにしよう!」

 

次にエリンギ、カルビ、ピーマンと続いた。

川のせせらぎの中でのビールもまた格別に美味い。

タロちゃんはカップ焼酎を買っていてビールからそれにチェンジした。焼酎をキで呑むとはタロちゃんは凄い。

 

 

 

 

「ねえねえ、金ちゃん」

カルビに夢中だった僕にタロちゃんが言った。

 

「この川、魚釣れないかな?」

 

なんとそうだった。僕達は釣り道具を持ってきていたのである。

「釣れるかも!!」

僕は勇んだ。

 

「だけどおれ達が持ってるルアーはでかいから

   ワームかなーワームで川魚釣れるかなー」

 

タロちゃんが焼酎をぐびぐび吞みながら考えていた。

 

しばらく沈黙の後2人同時に言葉を発した。

 

「ミミズ探そうか!!」

 

 

 

僕とタロちゃんは川辺の岩を剥ぐってミミズを探しだした。

いるいる。

 

「金ちゃーん!サワガニがいるー!焼こう!」

 

タロちゃんがミミズと小さなサワガニを5匹ほど捕まえてきた。

「虫が付いてないかな?お腹壊さないかな?」

僕がビビっているとタロちゃんは焚き火の中にサワガニを1匹投げ込んだ。

 

ピシピシとサワガニが焼ける音がする。

 

「もういいだろう」

 

タロちゃんは長い枝で赤く焼けたサワガニを摘んでバリバリと食べ始めた。

香ばしい香りがする。

 

「んまっ!!金ちゃんも食べなよ!うまっ!」

「た、食べる食べる!!」

 

僕もサワガニを焚き火に投げ入れてこんがりと焼いてバリバリと食べてみた。

「なにこれ!うまあっ!」

 

 

あっという間にサワガニ5匹食べ終わった。

「タロちゃん、もっとサワガニ探そう!」

僕が意気込むとタロちゃんは笑ってミミズを見せてきた。

そうだった。釣りするんだった。

 

 

釣り竿をセットして釣り針にミミズをチョン掛けしてオモリを付けて川の真ん中の大きな岩に仕掛けを投げた。

 

釣りとなると僕達の目の色が変わった。ただひたすら魚からこちらの影が見えないように身をすくめた。焚き火の火は絶えたが枝や葉っぱのストックはまだまだある。僕達は気にせず、たまに酒をグビッと一口呑んでは釣りに集中した。

 

 

お天道様はとっくに西の方へと傾いていた。

川の流れる音が辺りに溶け込んでいた。

 

f:id:kanedanobaiku:20180524205805j:plain